健康保険・厚生年金保険 標準報酬月額の決定方法② ~定時決定~
このページでは健康保険および厚生年金保険の標準報酬月額の定時決定について説明します。定時決定とは毎年一定の時期に従業員の報酬(給料)や標準報酬月額を届け出ることを言い、これにもとづき社会保険の保険料が決まります。
この他にも取得時決定(こちらのページ)、随時改定(こちらのページ)という制度もありますので、詳しくは各ページをご覧ください(内容は重複している部分があります)。
また、報酬月額や標準報酬月額等の用語や、兼業等で同時に2つ以上の事業所から報酬を受ける場合の報酬月額や保険料の決定の仕方、保険料額表の見方も取得時決定のページに掲載しています。必要であればご覧ください。
Ⅰ.標準報酬月額の決定方法
標準報酬月額には以下の3種類があり、それぞれに決定タイミングがあります。
・資格取得時決定
・定時決定
・随時改定
1つめの資格取得時決定はその名の通り、従業員が健康保険、厚生年金保険の被保険者となった時、つまりの被保険者の資格を取得した時に決定されるものです。2つめの定時決定について、こちらもその名の通りで、毎年一定の時期に決定するものです。3つめの随時改定は賃金に著しい高低が生じた場合に、資格取得時や定時決定で決定した標準報酬月額を改定するというものです。
ここからは、定時決定について詳しく説明します。
Ⅱ.定時決定
1.定時決定の対象者
定時決定の対象者は、7月1日現在で在籍している、直近で資格取得時決定や随時改定が行われていない従業員です。基本的に健康保険、厚生年金保険に加入している従業員のほぼ全員が該当し、下記のいずれかに当てはまる一部の方は対象外になるイメージです。
・6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した者
・7月から9月までの間に随時改定、育休や産休終了時の改定が行われる者
健康保険法第41条
厚生年金保険法第21条
2.標準報酬月額の計算方法
(1)原則的な計算方法
標準報酬月額は4月~6月の3ヶ月間 (報酬支払基礎日数が一定の日数未満の月を除く)に実際に支払った報酬の総額を、その月数で割ることで報酬月額を算定し、これを「保険料額表」にあてはめることで標準報酬月額を決定します。
報酬支払基礎日数は、文字通り報酬の支払いの基礎となった日数のことで、日給者の場合は実際に働いた日数になります。月給制の場合、年次有給休暇を取得した日や休日・祝日を含めることが多いと思いますが、その場合はその月の総日数になります。
以下で例を示します。正社員、月給制、報酬は月末締め翌月払いの事業所で、報酬は基本給+諸手当込みの金額となっています。

表の説明をします。定時決定では、報酬は4月~6月に支払われた報酬が用いられます。6月の労働分は7月に支払われますが、これは報酬としてカウントしません。よってこの例では、報酬支払基礎日数は前月の総日数ということになります。たとえば4月の報酬支払基礎日数は30日ではなく、3月の総日数の31日ということになります。
報酬総額と平均額は3ヶ月間の報酬を足し算して3で割るだけです。標準報酬月額は、下に掲載している保険料額表により、報酬の平均額が25万円~27万円の範囲にある方ですので26万円となることが分かります。
最後に等級は、健康保険が第20級、厚生年金保険が第17級です。
(2)報酬支払基礎日数が一定の日数に満たない場合
上記の例では3ヶ月間の報酬により標準報酬月額を導きましたが、これは毎月の報酬支払基礎日数が一定数以上あるからです。もし一定数未満であれば、2ヶ月ないし1ヶ月の報酬を用いて標準報酬月額を計算します。
その月の給料を報酬として数えるかどうかについて、具体的には下記の3通りあります。正社員についてはほとんど問題ないと思われますが、パート、アルバイト等の報酬支払基礎日数が月により異なる方は、労働日数や時間が短い場合は特に注意してください。
①通常の労働者(正社員と考えてください)
…報酬支払基礎日数が17日未満の月があれば、その月は算定の対象としない
②一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の一週間の所定労働時間(または一ヶ月間の所定労働日数)の3 / 4以上の労働者(パートタイマー等の短時間就労者)
…報酬支払基礎日数が17日未満であっても、15日以上の月があれば、その月は算定の対象とする
③「特定適用事業所」の、一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の一週間の所定労働時間(または一ヶ月間の所定労働日数)の四分の三未満の労働者(短時間労働者)
…報酬支払基礎日数が11日未満の月があれば、その月は算定の対象としない
以下でもう一つ例を示します。所定労働時間が通常の労働者の3 / 4以上のパートタイマー、時給制、報酬は月末締め翌月払いの事業所で、報酬は基本給+諸手当込みの金額となっています。

表の説明をします。この方は上記②に当てはまるので、報酬支払基礎日数は17日未満であっても、15日以上であればその月の給料は報酬としてカウントします。よって4月と6月は報酬支払基礎日数が15日以上なので算定の対象になりますが、5月は14日しかないので、この月の報酬はカウントされません。よってこの例では、報酬総額は4月と6月の報酬を足し、平均額はこれを2で割り求めます。標準報酬月額は、下に掲載している保険料額表により、報酬の平均額が14.6万円~15.5万円の範囲にある方ですので15万円となることが分かります。
最後に等級は、健康保険が第12級、厚生年金保険が第9級です。
なお、保険料率が変更された場合の注意点があります。保険料額表を見ると、たとえば「3月分から適用」と書かれています。これは、「3月分の報酬」から適用ということですので、当月払いの会社であれば「3月に支払われた報酬」、翌月払いの会社であれば「4月に支払われた報酬」から適用されます。翌月払いの場合、「2月分であるが3月に支払われた報酬」については古い料率が使われるのでお気をつけください。
健康保険法第40条・第41条、同施行規則第24条の2
厚生年金保険法第20条・第21条、同施行規則第9条の7

2.標準報酬月額の保険者算定
資格取得時決定や定時決定と同様に、通常の方法では報酬月額を求めることが困難であったり、算定額が著しく不当であったりする時は、保険者がこれを算定します。この保険者算定が行われる場合と標準報酬月額の決定の仕方は以下の通りです。
(1)4月~6月の3ヶ月とも全く報酬を受けていない時
…3月までの報酬月額を用います。
(2)4月~6月の3ヶ月とも報酬支払基礎日数が17日未満である時(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)
…3月までの報酬月額を用います。
(3)4月~6月のいずれかの月に、3月以前の報酬の遅配分が支給された時
…この場合には、 遅配分を除いて原則的な計算をします。
(4)昇給がさかのぼって行われ、 4月~6月のいずれかの月に、3月以前の分の昇給差額が支給された時
… 昇給差額を除き、 昇給後の報酬月額で原則的な計算をします。
(5)4月~6月の3ヶ月のいずれかの月の報酬が遅配のため、 7月以降に支給された時
…その月を除いて原則的な計算をします。
(6)4月~6月の3ヶ月のいずれかの月に低額の休職給の支給を受けた時、 またはストライキ等による賃金カッ トがあった時
…その月を除いて原則的な計算をします。ただし3ヶ月とも該当する場合は、 3月までの報酬月額を用います。
(7)以下の両方に該当する時
・当年の4月~6月の3ヶ月に受けた報酬の月あたり平均額から算出した標準報酬月額と、前年の7月 から当年の6月までの間に受けた報酬の月あたり平均額から算出した標準報酬月額の間に、2等級以上の差がある
・この差が業務の性質上、毎年発生することが見込まれる
…前年7月から当年6月までの一年間に受けた報酬の月あたり平均額により標準報酬月額にて決定します。
この場合、「年間報酬の平均で算定することの申立書」、「保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等」の提出が必要です。
(8)途中入社月がある時(1ヶ月分の報酬を満額で得られない月がある場合)
…その月を除いて原則的な計算をします。
(9)一時帰休による休業手当等が支給された時
…決定方法が複雑ですが、年金機構のこちらのページに詳しく掲載されているので、参考にしてください。
健康保険法第第44条
厚生年金保険法第24条
昭50.3.29保険発25号
平23保保発0331第6号、年管管発0331 第14号、保発0331 第17号、年発0331 第9号
3.標準報酬月額の適用期間
定時決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月まで適用されます。
健康保険法第41条
厚生年金保険法第21条
4.書類提出
(1)提出書類 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届
(2)提出先 管轄年金事務所
(3)提出期間 毎年7月10日まで
(4)添付書類 年間報酬の平均で算定のみ一定の書類が必要です。
健康保険法第41条、同施行規則第25条
厚生年金保険法第21条、同施行規則第18条