令和6年度の法改正① ~雇用、労働関係~

 この投稿では令和6年度の法改正の内容を紹介します。労働法や社会保険法は毎年改正が行われています。制度変更を把握することは大変ですが、とても大切なことです。一つ例を挙げると、最近ではニュース等で、2024年度はトラック運転手等の残業時間に関する法律が変わり、物流をどうするかといった報道をよく目にします。変更はこれ以外にも数多くあるため、ここでは主なものをピックアップして紹介します※1
 なお、雇用、労働関係の改正は4月1日から、社会保険関係の改正は10月1日から施行されます。

Ⅰ.雇用、労働関係

1.時間外労働の上限規制
 労働基準法の表現を借りながら説明すると、まずそもそも、労働者が残業や休日出勤(以下、残業等とします)をするには、いわゆる36協定の締結が必要です。その中で残業等ができる上限の時間(限度時間)を定めなければなりませんが、「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等」により「臨時的」に限度時間を超えて労働を命じることができるようにするため、特別条項を結ぶことができます。
 この特別条項を含めた労働時間の限度(上限規制と言います)が今回の改正で変更されています。具体的には業務の特性や取引慣行等により適用が猶予されていた業種等での猶予がなくなりますが、適用のされ方については業種等ごとに微妙に違いがあります。
 以下の(1)は全業種で適用されている規定です。(2)以降が今回の改正の内容ですので、ぜひ比べてみてください。

(1)すべての事業場に適用されている規制
 こちらは改正前からすべての事業場に適用されています。

・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉(6回)が限度
・時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満

(2)建設業

・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉(6回)が限度

(3)自動車運転の業務
 トラック運転手等が該当するのがこちらです。タクシーやバスの運転手も含みます。

・時間外労働が年960時間以内

なお、タクシー、ハイヤー、トラック、バスの運転者の拘束時間、休息期間等のルールも変わります。詳しくは厚生労働省のこちらのページをご覧ください。

(3)医師

・A水準と連携B水準:時間外労働と休⽇労働の合計が年960時間以内
(厳密には月100時間未満という規定もありますが、一定の措置を講じれば年960時間以内の条件のみとなります)
・B水準とC水準:時間外労働と休⽇労働の合計が年1,860時間以内

 ここでは割愛しますが、その他、副業、兼業時の通算についてのルールもあります。

労働基準法第36条、同施行規則第条


2.労働条件明示事項の見直し
(1)全労働者が対象のもの
 従来は労働者を採用する場合、以下の事項を明示することになっていました(絶対的明示事項と言います)。

・労働契約の期間
・就業の場所及び従事すべき業務
・始業及び終業の時刻等
・賃金の決定等
・退職に関する事項(解雇の事由を含む)

今回の改正により、上記の項目に加え

・就業の場所及び従事すべき業務について、その変更の範囲

も加えなければならないことになりました。要は採用の直後だけでなく、「将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲」※2も労働契約書等に加えなければならないということです。
 変更の範囲ですが、「雇止めの告示」※3によると、配置転換や在籍型出向が命じられた場合の就業場所や業務は含まれますが、臨時的な他部門への応援業務や出張、研修等、あるいは一時的な就業場所や業務の変更は含まれません。

(2)有期雇用労働者が対象のもの
①通常の契約の締結時または更新時
 有期雇用労働者については(1)の規定は契約時に加え、その更新時にも適用されます。加えて契約を更新することがある場合、以下の事項も明示することになっていました(こちらも絶対的明示事項です)。

・有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項

今回の改正により、上記の項目に加え、次の項目も明示することになりました※3

・更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と、有る場合はその内容

 さらに、以下の義務も加わります。

・最初の契約締結後に更新上限を設けたり、引き下げたりする場合はその理由の説明

②無期転換申込権が発生する契約更新時
 有期雇用労働者との契約期間が通算して5年を超える場合、無期労働契約への転換申込権が発生します。今回の改正で、以下の義務が加わりました。

・「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示
・上記のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示

「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングとは、現在の契約期間と次の契約期間を合わせると5年を超える更新契約を結ぶタイミング、ということです。
 また、次の事項も努力義務とされました。

・上記のタイミングごとに、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者とのバランスを考慮した事項(例:業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲など)について、有期契約労働者への説明

 通常の労働者とは、正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者のことです。労働条件は、申込み時点で適用されている労働契約と同じでも構いません。
 なお、有期雇用労働者にはパートタイム・有期雇用労働法が適用されますが、フルタイム(=短時間でない)の有期雇用労働者がフルタイムのまま無期転換した場合は、同法は適用されません。法律の内容についてはこちらの記事をご覧ください。


3.裁量労働制の改正
 裁量労働制とは、労働基準法の文言を借りながら説明すると、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、その遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な(あるいは、しない)業務のことです。この制度は大きく分けて専門業務型と企画業務型の2つのタイプがあります。
 これらの業務は労使委員会で決議する(あるいは労使協定を結ぶ)ことにより、決議や協定で定められた時間だけ働いたとみなされるようになります。

(1)専門業務型
 こちらのタイプの対象になる業務は厚生労働省により定められています。現在、「新商品若しくは新技術の研究開発」や「コピーライターの業務」、「証券アナリストの業務」、「金融工学等の知識を用いる金融商品開発業務」等が定められていますが、今回の改正で以下の業務も追加になりました。

・銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)

 さらに、従来は不要だった労働者の同意が必要になったことで、次の3つの事項も労使協定に定めることになりました。

・労働者の同意を得なければならないこと
・同意をしなかつた労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
・同意の撤回に関する手続

これに付随して、

・同意や撤回の五年間の保存義務

も生じます。

(2)企画業務型
 企画業務型では労使委員会で決議しなければならない事項として、以下のことが追加されます。

・同意の撤回に関する手続(同意自体は改正前から必要です)
・使用者は、企画業務型の対象となる労働者に適用される評価制度やこれに対応する賃金制度を変更する場合は、労使委員会に変更の内容を説明すること
 
さらに、

・労働者の同意の撤回の五年間の保存義務の追加
・労基署への報告が、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して6ヶ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回に変更
(従来は決議の日起算で、2回目以降の報告も6ヶ月以内ごとに1回)

といった改正もあります。
 

4.障害者の法定雇用率の引上げ
 現在「障害者の雇用の促進等に関する法律」により、雇用労働者に占める障害者の割合について一定の率(法定雇用率)が定められています。民間企業、国、地方公共団体等、都道府県等の教育委員会の別により率が異なりますが、民間企業は以下のようになりました。

・民間企業 2.5%(従来は2.3%)

言い換えると、従来は雇用労働者数が43.5人以上の事業主が対象でしたが、それが拡大し、従業員数40人以上の事業主が対象になるということです。
 また、障害者数の数え方も変わります。従来は週所定労働時間が20時間以上の方が対象でしたが、以下の方もカウントされるようになります。

・週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者および重度知的障害者(0.5人)

また、障害者雇用調整金等の支給額の計算方法も変更されます。
 なお、法定雇用率は令和8年7月から2.7%(37.5人以上)に引き上げられ、除外率は令和7年4月から業種ごとに引き下げられることになっています。


5.その他
 詳細は割愛しますが、以下の事項について複数の改正がされています

・労使委員会について、委員の指名の法方等
・雇入れ時等の教育の省略の可否

※1 厚生労働省HPに改正が網羅されたページがあるので、よければ参照してください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198659_00017.html
※2 厚生労働省のリーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」より抜粋
※3 雇止め告示 001156120.pdf (mhlw.go.jp)

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