健康保険・厚生年金保険 標準報酬月額の決定方法① ~資格取得時決定~
このページでは健康保険および厚生年金保険の標準報酬月額の決定方法を説明します。社会保険の保険料は標準報酬月額にもとづいて決められますが、その決め方には一定のルールがあります。まずはどのような時に標準報酬月額を届け出るのかを確認した後、その算定の仕方を説明します。
Ⅰ.標準報酬月額の決定のタイミング
標準報酬月額には以下の3種類があり、それぞれに決定タイミングがあります。
・資格取得時決定
・定時決定
・随時改定
1つめの資格取得時決定はその名の通り、従業員が健康保険、厚生年金保険の被保険者となった時、つまりの被保険者の資格を取得した時に決定されるものです。具体例として以下のものが挙げられます。
・正社員(条文上は「通常の労働者」)として会社に入社した
・労働時間が短い等で適用除外だったが、労働時間や報酬が増加して適用の対象になった
・適用の対象外だった事業所が、一定条件を満たす、あるいは任意適用の申請をして適用事業所になった
正社員として入社する例は分かりやすいと思いますが、それまで適用されていなかった短時間労働者や事業所が後に条件を満たし加入が義務になった、という場合はうっかり見落として法令違反となることもあるので気をつけてください。
2つめの定時決定について、こちらもその名の通りで、毎年一定の時期に決定するものです。詳しくはこちらのページをご覧ください。3つめの随時改定は賃金に著しい高低が生じた場合に、資格取得時や定時決定で決定した標準報酬月額を改定するというものです。これについても、詳しくはこちらのページをご覧ください。
Ⅱ.資格取得時決定
ここからは、資格取得時決定について詳しく説明します。
1.報酬月額と標準報酬月額
まずは用語の違いから説明します。報酬月額は、あえて簡潔な表現をすると、毎月の給料はいくらかということです。給料は労働保険では賃金と呼ばれますが、健康保険や厚生年金保険では報酬と呼ばれます。その月額が報酬月額です。
標準報酬月額は報酬月額を基に決まり、この標準報酬月額を基にして毎月の保険料が決定します。報酬月額から標準報酬月額を決める方法は後ほど説明しますが、簡単に言えば、「給料は毎月変わることも多いから、〇〇円以上△△円未満は□□円ということにして事務を簡略化しよう」ということです。この□□円に当たるのが標準報酬月額です。
両社はよく似た表現なので間違いやすいですが、区別したうえで以下の説明をお読みください。
2.報酬月額の決定方法
標準報酬月額は、基本的に継続した3ヶ月の報酬を基に決定します(定時決定や随時改定がそうです)。しかし新入社員で考えると分かりやすいですが、資格取得時には報酬の支払い実績はありません。よって、資格取得時の報酬月額は入社時等の他の被保険者の実績に基づき、以下のように決定されます。
なお、報酬月額は就業規則や労働契約等の内容に基づいたものにより決定されます。
(1)月、週、その他一定の期間によって報酬が定められている場合
…資格取得の日における報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の30倍相当額
(2)日給、時給、または出来高、 請負により報酬が定められている場合
…資格取得月の前1ヶ月間に、その事業所において、その被保険者と同様の業務に従事し、 同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額
(3)上記2つの方法による算定が困難な場合
… 資格取得月の前1ヶ月間に、その地方において同様の業務に従事し、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額
(4)上記1~3のうち、いずれか2つ以上の報酬を受ける場合
…それぞれの方法で算定した額を合算した 額。 たとえば、 月給制(1に該当)の方が時間外手当(2に該当)も得ていれば、両者を合算した額により報酬月額を算出します。
(5)同時に2つ以上の事業所から報酬を受ける場合
…各事業所につき上記に1~4の方法により算出した額を合算します。なお保険料は、決定した標準報酬月額により算出した保険料額を、それぞれの事業所の報酬月額に基づき按分して決定します。たとえばA社の報酬月額とB社の報酬月額が1:2とすると、保険料も1:2の割合で負担する、といった具合です。
(6)上記のいずれの方法でも算定困難な場合
… 保険者が算定します。
健康保険法第42条・第44条・第161条、同施行令第47条
厚生年金保険法第22条・第24条・第82条、同施行令第4条
3.標準報酬月額の決定方法
標準報酬月額は上述の通り、「〇〇円以上△△円未満は□□円」という形で決定します。以下では実際の保険料額の表を用いて説明します。
なお、標準報酬月額の決定方法や厚生年金保険の保険料率(18.3%)は全国共通ですが、健康保険料の保険料率は協会けんぽか健康保険組合か、あるいは協会けんぽであればどの都道府県の事業所かによっても異なります。また、表は文字が小さいので、良ければこちらの協会けんぽのホームページで実際の表も参考にしてください。

4.保険料額表の見方
(1)標準報酬月額
一番左の列について、その左側にある数字が等級、右側にある数字が標準報酬月額を表します。等級は左側にある方は健康保険、( )の中にある方は厚生年金保険のものです。主に年度途中に行う随時改定をする時に、改定の対象になるか判断するのに使います。保険料は標準報酬月額に保険料率を掛けることで算出されます。
(2)報酬月額
左から二番めの列にあるのが報酬月額です。一定のバンドによって表されております。細かいですが、~の左側は「以上」、右側は「未満」なのでお気をつけください。
(3)健康保険料、厚生年金保険料
報酬月額の右側にあるのが実際の保険料です。左から三番めの列にあるのが健康保険料で、介護保険料の納付があるかどうか、保険料全額と折半額とに分かれて掲載されています。一番右の列にあるのが厚生年金保険料で、同じく保険料全額と折半額とが記載されています。
(4)等級の上限、下限
健康保険と厚生年金保険とで等級の数や上下限に違いがあります。具体的には下表の通りです。


等級は厚生年金保険の方が数も月額も小さくなっています。結果、厚生年金保険は収入が多ければ多いほど負担が少なくなり、同時に、将来の厚生年金の給付額も退職前の給料と比べると低くなります。実務的には昇降級の際、随時改定の対象になるか気をつければよいでしょう。
対して下限ですが、昇降級に伴う随時改定の対象になるかどうかに加えて気をつけることがあります。下限が問題になるのは基本的にパート、アルバイト等の短時間労働者の方かと思われます。この場合、昇降級に加えて、時給は同じでも労働時間や日数の増減によっても報酬月額が変わること、さらに一定の場合にはそもそも健康保険、厚生年金保険の対象ではなかった方が加入の対象になることもあります。
健康保険法第40条・第156条
厚生年金保険法第20条・第81条
5.標準報酬月額の適用期間
こうして決定された標準報酬月額は、いつまで有効なのでしょうか。原則は資格取得月からその年の8月まで適用されますが、6月~12月の間に資格を取得した場合は、翌年の8月までのものとされます。
健康保険法第42条
厚生年金保険法第22条