現物給与の価額

 このページでは現物給与、つまりお金ではなく物として与えられる給料について取り上げます。労働保険や社会保険の保険料は毎月の給与額をもとに決められ、食事や社宅等の現物で支給されるものも同様に保険料に反映されます。銀行口座に振り込まれるものは金額が明らかなので問題ありませんが、現物支給されたものはどのようにして金額が決まるのでしょうか。
 どの現物給与をどう金額換算するのかは、保険料の納付を通じて事業主や従業員にも大きく関わってきますので、以下で具体的な計算方法を紹介します。

Ⅰ.現物給与の範囲

1.労働保険
 労災保険と雇用保険では、次のものが現物給与となります。

・食事の利益、被服の利益、住居の利益
・その他、所轄の労働基準監督署長や所轄公共職業安定所長の定めるもの

 一つめについて、法律の文言が「〇〇の利益」となっているのでややこしいですが、要は食事、服、住居を現物で提供していれば給料扱いとなる、ということです。具体的には食事であればお弁当の支給がそれに当たります(現物ではなく、食費としてお金のみ支給する場合は通常の給与となります)。
 服は文字通りですが、制服や作業服の貸与であれば業務上の用具とみなされるため給与とはなりません。住居は社宅と考えれば分かりやすいでしょう。なお、これらは現物と一緒に費用を徴収している場合でも現物給与となります。
 その他、通勤定期券や回数券の現物支給も給与に含まれます。
 これらの給与が具体的に何円になるのかは、都道府県別に厚生労働大臣が定めます。


2.社会保険
 大まかな範囲は労働保険と同じです。評価額も同様に、地方の時価により厚生労働大臣が定めます。なお、健康保険組合は規約により独自に定めることができます。


3.告示額
 現物給与の価額は厚生労働大臣が定めます。こちらは告示として公表されており、厚生労働省のHPで見ることができます。以下に令和6年4月から適用される分の抜粋を掲載します。表の一番下が京都府のものです。
 食事の利益は1ヶ月、1日、1食(朝昼夕)の別に額を判断します。住居の利益はその面積により判断します。厚生労働省のHPでは一畳あたりの額が掲載されており、畳が敷かれていなければ1.65㎡を一畳として計算します。



4.住居の利益について
(1)利益額算定のためのルール
 住居の利益は面積により判断されると述べましたが、すべての面積を計算に入れるわけではなく、たとえば玄関や台所は計算から除外します。具体的には、以下の決まりがあります。

・居間、茶の間、寝室、客間、書斎、応接間、仏間、食事室など、居住用の部屋は計算の対象となります。
・玄関、台所(炊事場)、トイレ、浴室、廊下、農家の土間など、居住用以外の部屋やスペースは計算の対象としません。
・店、事務室、旅館の客室などの営業用の部屋は計算の対象としません。

・同居世帯がある場合には、同居世帯が使用している部屋数も含め、被保険者数で除して一人分の価格を算定します。
・居住用と居住用以外が混在している部屋(ダイニング・キッチン等)は、居住用以外の空間を除いて算定します。

・原則として、被保険者の勤務地※1が所在する都道府県の価額が適用されます。

・計算の結果、1円未満の端数が出れば切り捨てます。

(2)計算の例
 住居の利益の計算例をあげます。たとえば勤務地が京都府で、住居が次のような間取りだとします(間取りは厚生労働省のHPより抜粋しています)。

 この場合、青く色のついた部屋の面積をもとに現物給与の価額を算出します。もし色のついた部屋の総面積が30㎡であれば、以下のように計算します。

30 ÷ 1.65 × 1,810 ≒ 32,909

 よって、現物給与の価額は32,909円となります(1円未満の端数は切り捨てます)。
 ここから先は、保険ごとの食事や住宅の利益の金額換算の仕方や決まりを説明します。

労働保険徴収法第2条、同施行規則第3条
健康保険法第46条
厚生年金保険法第25条

H25年厚生労働省告示第17号
H24.1.31年管管発第2号・第3号

Ⅱ.労働保険

1.食事の利益※2、※3

(1)代金を徴収するもの
①原則
 給与とはなりません。

②徴収金額が、告示額の1 / 3未満である時
 この場合、以下の金額が賃金とみなされます。

賃金額 = 告示額 ÷ 3- 徴収金額

 具体例をあげると、たとえば告示額が300円の場合、3で割った100円が基準となります。徴収金額が100円以上であれば給与とはなりませんが、100円より少なければ給与となります。仮に徴収金額が50円であれば100 - 50により50円が、徴収金額が10円であれば100 - 10により90円が給与となります。

(2)代金を徴収しないもの
 告示額が現物給与の価額となります。
 ただし、次のすべてに該当すれば、福利厚生として取り扱われます。現物給与とはされません。

・ 労働協約、就業規則等に定められて明確な労働条件の内容となっているものでないこと
・ 給食による客観的評価額が社会通念上僅少なものと認められること

 要は、労働条件として明示されておらず、給料からの天引きもなく、評価金額もごくわずかな食事は、福利厚生扱いということです。
給与とはなりません。実費の徴収がなければ福利厚生費となり、福利厚生費は給与とはみなされないためです。


2.住居の利益
 以下の要件に当てはまれば、住居の利益を計算します。

・住居施設が供与されない者に対して、住居の利益を受ける者との均衡を失しない定額の均衡手当が一律に支給される場合

 難しい言い方ではありますが簡単に言うと、社員全員に現金か家の形で手当を支給している場合、ということです。この要件に当てはまれば、次は代金を徴収するかどうか、徴収するのであればいくらかで現物給与の価額を計算します。具体的には次の通りです。

(1)代金を徴収するもの
①原則 給与とはなりません。

②徴収金額が、告示額の1 / 3未満である時
 この場合、食事の利益と同じ計算式により出された金額が賃金額がとみなされます。

賃金額 = 告示額 ÷ 3- 徴収金額

(2)代金を徴収しないもの
 告示額が現物給与の価額となります。

H24.1.31年管管発第2号・第3号
厚生労働省HP

Ⅲ.社会保険

1.食事の利益

(1)代金を徴収するもの
①徴収金額が、告示額の2 / 3以上である時
 給与とはなりません。

②徴収金額が、告示額の2 / 3未満である時
 この場合、以下の金額が賃金とみなされます。

報酬額 = 告示額 - 徴収金額

 具体例をあげると、たとえば告示額が300円の場合、その2 / 3である200円が基準となります。徴収金額が200円またはそれ以上であれば給与とはなりませんが、200円を下回っていれば給与となります。仮に徴収金額が100円であれば300 - 100により200円が、徴収金額が50円であれば300 - 50により250円が給与となります。
 この時、「告示額」から徴収金額を引くことに気をつけてください。労働保険では「 告示額 ÷ 3」から徴収金額を引きますが、社会保険では「 告示額 × 2 / 3」から引くことはしません。

(2)代金を徴収しないもの
 告示額が報酬額となります。


2.住居の利益

(1)代金を徴収するもの
 家賃等を徴収する場合、以下の金額が賃金とみなされます。告示額の 2 / 3 以上かどうかは考慮しません。

報酬額 =告示額 - 徴収額(負担額)

(2)代金を徴収しないもの
 告示額が報酬額となります。

H24.1.31年管管発第2号・第3号
厚生労働省HP

※1 派遣労働者については、実際の勤務地(=派遣先の事業所)ではなく、派遣元の事業所が所在する都道府県の価額で計算します。


※2 本文で取り上げたものの他、以下のような決まりがあります。

・住込労働者で1日2食以上給食されることが常態にある場合、食事の利益を計算します。


※3 その他の決まりについては、雇用保険に関する業務取扱要領の「50404(4)現物給与の評価」をご覧ください。

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