非正規(パート、アルバイト、有期雇用)で働く人の給料や手当の決め方を知りたい

 この投稿では正社員ではなくパートやアルバイト、有期契約で社員採用をする際に知っておくべき法律を説明します。日ごろから非正規の方を雇っている企業もあれば、人手不足でやむなくパートやアルバイトの方を雇うという企業もあろうかと思います。また、たとえば正社員の給料を上げた場合、非正規の方の給料はどうすればよいのでしょうか。
 これらの待遇は、パートタイム・有期雇用労働法という法律(正式名称は短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)に従って決めなければなりません。そこでこの投稿では、この法律の解説を通して皆さまの疑問を解決していきたいと思います。

Ⅰ.基本的な考え方

 突然ですが、同一労働同一賃金という言葉を聞いたことがあるでしょうか。文字通りには「仕事の内容が同じなら、給料も同じ」ということですが、そうではありません。平たく言うと、「仕事の内容だけでなく、労働時間や責任の重さ、転勤の有無等の様々な事情を踏まえて毎月の給料等を決めましょう」ということです。そしてそのルール作りのためにパートタイム・有期雇用労働法があるのです。
 以下で、この法律を理解するために知っておくべき用語やポイントをお伝えします。

1.対象者 
 この法律の対象になるのは、

・パートやアルバイト等の、正社員よりも労働時間が短い労働者
・有期雇用の(=1年や3年等、契約期間の定めがある)労働者

になります。有期雇用の場合は労働時間が正社員と同じ人も含みます。正社員は無期雇用のフルタイムの労働者のことですが、正社員の中でいわゆる総合職、一般職等の労働条件の違う職種があっても、これらの方はこの法律の対象にはなりません。
 このページでは上記2種類の労働者を「非正規社員」と呼ぶことにします。


2.待遇差
 この法律では正社員と非正規社員との待遇の差を適切なものにすることが求められます。具体的には次の二つの待遇差が取り上げられており、これが守られなければ違法となってしまいます。

(1)均等待遇
 均等待遇は、労働条件について、仕事の内容や異動、転勤の有無等が、採用から退職まで正社員と同一の場合に適用されるものです。この場合、正社員かそうでないかで待遇に差を作ることはできません。ただし、非正規社員がこの要件に当てはまる例は少ないでしょう。

(2)均衡待遇
 二つめは均「衡」待遇です。均等待遇と似ていますが、こちらは仕事の内容や異動の有無等が正社員と非正規社員の間で異なる場合に適用されるものです。
 この用語は簡単に言うと、待遇に差があってもよいが、「不合理」と認められるものはいけませんよ、ということです。主に問題となるのはこちらの待遇差ですので、ここから先は均衡待遇をメインに取り上げます。

 なお、待遇が何を指すのかですが、この法律では賃金だけでなく、賞与や各種手当、教育訓練、福利厚生、解雇にいたるまで、労働者に対するあらゆる待遇を含んでいます。


3.均衡待遇のポイント
(1)何と何の均衡が見られるか
 均衡待遇とは正社員と非正規社員との間で、労働条件のバランス(=均衡)が取れているということです。法律上、均衡待遇は以下の三つの要素から成り立っています。

・職務の内容(業務の内容と、その責任の程度)
・職務の内容および配置の変更の範囲(業務内容や責任の重さが異動や転勤、職種の変更、昇格昇給等により変わるか)
・その他の事情(労使交渉の経緯等)

(2)待遇は一つ一つで見るか、全体を一つとしてみるか
 待遇はその一つ一つについて均衡が取れているか判断されます。具体的には基本給は基本給、賞与は賞与といった具合に個別に判断されます。手当であれば〇〇手当は〇〇手当、△△手当は△△手当同士で比べるといった具合です。
 基本給、賞与、手当すべて合わせてどうか、という観点で見られることは原則としてありません。

 ここまでの説明は抽象的で分かりにくいかもしれません。以下の項目で、厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」※1を用いながら、具体例を通して説明していきます。「」内は同ガイドラインからの引用です。

Ⅱ.基本給、賞与

 まずは基本給のルールを見ていきます。ガイドラインでは基本給の決め方について、いわゆる職能給、成果給、勤続給、昇給時の例が挙げられています。
 
1.職能給
(1)意味と決め方
 職能給とは「基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの」のことです。基本給が職能給で決められている場合、正社員と非正規社員が同一の能力や経験を持っていれば、支給額も同一でなければなりません。
 なお、基本給がたとえば職能給+成果給の場合は、基本給のうち職能給に当たる部分のみにこの規定が適用されます。

(2)具体例

 正社員のAさんとパートのBさんは同じ業務に就いているが、両者で基本給が異なる。ただし、Aさんは職業能力向上のための特殊なキャリアコースを選択してその能力を得たが、Bさんは同コースを受けていないのでその能力がない。

 …こちらは問題となりません。AさんとBさんとでは、蓄積した職業能力が異なるからです。


 正社員のCさんと有期雇用労働者のDさんは同じ業務に就いているが、Cさんの方が基本給が高い。CさんはDさんよりも経験が豊富だからである。ただし、Cさんのこれまでの経験は現在の業務に関連がない。

 …こちらは問題となる場合です。あくまで現在の業務に対する能力や経験が求められます。

(3)ポイント
 ガイドラインでは基本給の違いについて、「将来の役割期待が異なる」といった「主観的又は抽象的な説明では足り」ないと述べられています。しかし実際の現場において、今は仕事が同じでも将来は期待されるポジションが異なる、ということも多いと思います。
 そこで、待遇差が不合理と判断され法令違反とならないための対策として、上記①のようなキャリアコースの他、管理職養成のためのキャリアコースを設けたり、正社員は転勤があるが非正規の方はない等の明確な区別を作ったりしておくとよいでしょう。客観的、具体的な事実を作り、それに基づき基本給を設定することが大切ということです。


2.成果給
(1)意味と決め方
 成果給とは「基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するもの」のことです。基本給が成果給で決められている場合、正社員と非正規社員の業績や成果が同一であれば、支給額も同一でなければなりません。

(2)具体例

 正社員のAさんは、短時間労働者であるBさんと同様の業務に就いているが、Aさんは生産効率や品質の目標値に対する責任を負っており、この目標値が達成されない場合、待遇上の不利益を課される。その一方で、Bさんは上記の目標値に対する責任を負っておらず、それが達成されなかったとしても待遇上の不利益を課されることはない。
 Aさんは、待遇上の不利益を課されることがあるため、Bさんよりも基本給が高い。

 …こちらは問題となりません。Aさんは待遇上の不利益を受ける可能性があり、それが基本給の高さによって相殺され、結果としてBさんの待遇との間に不合理な差はないと考えられるからです。


 正社員のCさんは、短時間労働者のDさんと同様の業務に就いているが、Cさんは販売目標を達成した場合に手当をもらうことができる。DさんはCさんと同じ販売目標を達成すれば手当がもらえるが、そうでなければ手当は支給されない。

 …こちらは問題となる場合です。例えば正社員Cさんの所定労働時間が8時間、短時間労働者のDさんの所定労働時間がその半分の4時間であれば、販売目標は半分にすべきです。たとえばCさんの目標が月に100万円だとすると、Dさんの目標が月に50万円であれば、妥当な目標となります。

(3)ポイント
 具体例②では基本給ではなく手当が成果に応じて支払われることになっていますが、基本的な考え方は基本給と共通です。待遇のバランスが取れているかは、基本給か手当といった名称ではなく、あくまで実態で判断されることを押さえておきましょう。
 さらに言えば、基本給はバランスが取れていても、手当に成果報酬部分がある場合、後者に不合理な待遇差があれば法令違反となります。待遇全体について均衡が取れているかチェックすることが大切です。


3.勤続給
(1)意味と決め方
 勤続給とは「基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するもの」のことです。基本給が勤続給で決められている場合、勤続年数が同一の正社員と非正規社員がいれば、支給額も同一でなければなりません。

(2)ポイント
 有期雇用労働者の勤続給は、「当初の労働契約の開始時から通算し」たものにしましょう。たとえば一年ごとに契約を更新することになっており、2023年4月に最初の契約をし、2024年4月以降も契約を更新して働いている労働者がいる場合、この方の勤続給は2024年ではなく2023年4月からカウントすることになります。


4.昇給
 昇給が「労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの」である場合、正社員と同様の勤続により非正規社員の能力が向上していれば、正社員と「同一の昇給を行わなければならない」とされています。
 なお、上記1~3と同じで、昇給に「労働者の勤続による能力の向上に応じて行う」以外の部分があれば、その部分はこのルールの対象外になります。


5.賞与
 最後に賞与、いわゆるボーナスです。ガイドラインでは賞与が「会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するもの」である場合、正社員と非正規の方で「同一の貢献」あれば「同一の賞与を支給しなければならない」とされています。これについては、成果給と同様、と思ってもらえれば大丈夫です。
 なお、賞与に「会社の業績等への労働者の貢献に応じ」る以外の部分があれば、その部分はこのルールの対象外になります。

Ⅲ.手当

 ガイドラインには役職手当、特殊作業手当、特殊勤務手当、精皆勤手当、時間外労働 / 深夜労働 / 休日労働に対して支給される手当、通勤手当及び出張旅費、食事手当、単身赴任手当、地域手当の例が掲載されています。ここでは、時間外労働 / 深夜労働 / 休日労働に対して支給される手当、通勤手当、食事手当の3つについて見ていきます。

1.時間外労働 / 深夜労働 / 休日労働に対して支給される手当
(1)時間外労働に対して支給される手当
 いわゆる残業手当の支払いについては、「通常の労働者の所定労働時間」を超えて行った労働かどうかで判断されます。通常の労働者とは正社員と考えてもらって構いません。
 そのため、たとえば正社員の所定労働時間が7時間 / 日、パートの方の所定労働時間が4時間 / 日であったとして、パートの方が残業して一日の労働時間が4時間を超えても、すぐに残業手当を払わなければならないわけではありません。

①法定労働時間と所定労働時間について
 まずは用語について説明します。制度の理解として、同じ時間外でも、「法定」労働時間か「所定」労働時間か、どちらの時間外かを区別する必要があります。
 法定労働時間は基本的には一日8時間です(変形労働時間制やフレックス制等が適用されている場合は除きます)。それに対して、所定労働時間は各事業所の就業規則や労働契約で決められているもので、事業所や労働者により異なります。
 それを踏まえ、以下の2パターンに分けて説明します。なお、このページでは法定労働時間は8時間 / 日、正社員の所定労働時間は7時間 / 日、パートの方の所定労働時間は4時間 / 日とします。

②法定労働時間「内」だが、所定労働時間「外」の場合
 たとえば、正社員が一日に7時間より長く働いたが、8時間以下であったと考えてください。前提としてこの場合、正社員の労働時間が8時間を超えない限り、法的には残業代の支払いは不要です。
 ただし仮に就業規則に7時間を超えたら時間外手当を支給するという規定があれば、当然、この正社員に時間外手当を支給しなければなりません。この場合、パートの方の一日の労働時間が7時間を超えた時に、パートの方への時間外手当の支給義務が発生します。パートの方の時間外手当の規定が就業規則に記載されていなくても発生します。

③法定労働時間「外」の場合
 この場合、正社員かパートかにかかわらず、時間外手当の支払いが法的に必要になります。ただしここでもバランスを取ることが求められます。
 時間外手当を正社員にもパートの方にも25%の割増率で支払うのであれば問題はありません(労働基準法では割増率は25%以上とされています)。しかし、たとえば正社員の割増率が35%、パートの方の割増率が25%であれば、両者の均衡が崩れるため、後者の割増率も35%にしなければなりません。
 時間外手当が労働時間の抑制やプライベートの時間が削られることの対価と考えれば、そこに正規も非正規も差はないと考えれば分かりやすいかもしれません。
 なお、一ヵ月の時間外労働が60時間を超えた場合、超えた部分の割増率は倍の50%以上になります。


2.深夜労働 / 休日労働に対して支給される手当
 深夜労働 / 休日労働に対して支給される手当も基本的な考え方は時間外労働に対して支給される手当と同じです。正規か非正規かの区別なく、同じ割増率を支給する必要があります。
 ただし労働基準法では休日について、「毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」とされているため、法的な支払い義務が生じるのは基本的に週の労働日数が6日を超えてからになります。
 また、割増率は深夜労働は25%以上(時間外手当と同じ)ですが、休日労働は35%以上です。これらは合算されるので、深夜+時間外なら50%以上、深夜+休日なら60%以上となります。


3.通勤手当
 通勤手当は正規か非正規の方かにかかわらず、同一の額を支給しなければなりません。
 採用エリアを限定していない正社員には実費を全額支給し、一方で短時間・有期雇用労働者は採用範囲を店舗の近くに住んでいる人に限定しているため上限額を設ける、ということは可能です。この場合、店舗の近くに住む短時間・有期雇用労働の方が本人の都合で引っ越しをし、交通費が上限額を超えた場合は、上限額を支給すれば足ります。


4.食事手当
①金額
 食事手当を支給する場合、ガイドラインでは「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない」とされているため、同じ金額を支給する必要があります。

②支給するかどうか
 ガイドラインでは「同一の食事手当」を支給することが求められます。そのため、たとえば労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある正社員に食事手当を支給している場合、短時間労働者の勤務時間も昼食のための休憩時間があれば、同様に食事手当を支給しなければなりません。
 ただし、短時間労働者の労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(たとえば勤務時間が午後2時から午後5時まで等)場合は、食事手当はなくてもよいとされています。

Ⅲ.判例

 ここからは実際の裁判例を紹介します。同一労働同一賃金が問題となった学校法人大阪医科薬科大学事件※2を通じて、均等待遇や均衡待遇の判断基準が裁判でどのように適用されたのかを説明します。
 この事件では賞与、私傷病による(=労災ではない)欠勤中の賃金および休職給について、最高裁の判断が示されています。上記の待遇が2つとも支給される正職員と、両方とも支給されないアルバイト職員との待遇差が適法か違法かを見ていきましょう。「」内は判決文からの引用です。

1.労働条件の違い
(1)職務の内容
 正職員とアルバイト職員とで「業務の内容は共通する部分はあるものの」、正職員は「学内の英文学術誌の編集事務」や「毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事」しており、「両者の職務の内容に一定の相違があった」とされています。

(2)職務の内容および配置の変更の範囲
 正職員は就業規則で定められたルールとして「人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し」、アルバイト職員はそれが「例外的かつ個別的な事情により行われ」るものであり、「両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があった」とされています。

(3)その他の事情
 「契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていた」こと等がその他の事情として考慮されています。


2.各待遇の判断
(1)賞与
 賞与がどのような性質を持つかは事例ごとに個別に判断されますが、この事件では、通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっていることや支給実績から、「労務の対価の後払いや一律の功労報償,将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められ」、賃金体系等も踏まえると、賞与は業績連動ではなく「人材の確保やその定着を図る」ためのものと判断されました。
 そして、「賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえ」て、「正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮」した結果、賞与の待遇差については不合理とは言えないと判断されました。なお、高裁※3では賞与の待遇差は不合理と判断されており、最高裁においてこれが否定された形となります。

(2)私傷病による欠勤中の賃金および休職給
 この事件では正職員は、その休職規程において、「私傷病により労務を提供することができない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給する」こととされています。その目的について最高裁では正職員は「長期にわたり継続して就労し,又は将来にわたって継続して就労することが期待される」ため、「生活保障を図るとともに,その雇用を維持し確保する」ためのものであると解釈しました。
 そして、アルバイト職員について、「契約期間を1年以内とし,更新される場合はあるものの,長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難」く、「雇用を維持し確保することを前提とする」休職制度を適用することは妥当とは言えないという判断を下しました。なお、このアルバイト職員は勤務開始後2年ほどで休職に入ったことも考慮されているということも付け加えておきます。


3.その他
 高裁において、正職員に付与される夏期特別有給休暇をアルバイト職員には与えないことは不合理としています。理由は「蒸し暑い夏においては,その時期に職務に従事することは体力的に負担が大きく,休暇を付与し,心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められ」、この点において正職員とアルバイト職員とで相違があるわけではないからです。

Ⅳ.実務において

1.待遇面について
(1)均等か、均衡か
 貴社において待遇の均衡が取れているかを判断するために、まずは「職務の内容」や「職務の内容および配置の変更の範囲」が労働者間で同じかどうかをチェックする必要があります。これら同じであれば均等待遇、異なっていれば均衡待遇を考えます。その際、厚生労働省の「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル ~パートタイム・有期雇用労働法への対応~ 業界共通編」※3が参考になるでしょう。
 別の考え方として、正社員と非正規の方との間で「職務の内容」や「職務の内容および配置の変更の範囲」をあらかじめ切りわけておく、というのも分かりやすいでしょう。ただしこの場合でも、均等待遇はなくとも、均衡待遇について考える必要があります。

(2)バランスの取れた待遇差にするために
 均衡待遇を考える場合は、一つ一つの待遇についてつぶさに見ていく必要があります。その際、「毎月の給料やボーナス、手当は何に対して支払っているのか?」を明確にすることが大事です。基本給であれば職能、成果、勤続のいずれに基づいているかにより対応が異なります。また、仮に職能と成果の両方に基づいていればその比率、たとえば職能と成果の比が6:4なのか5:5なのか、といったことまで決めるとよいでしょう。
 注意点として、たとえ就業規則等で成果給としていても、実態が成果や業績に応じたものでなければ、裁判では職能給や勤続給と判断される可能性があることが挙げられます。繰り返しですが、均衡が取れているかは名称や形式ではなく、実態で判断されます。
 また、手当は各社各様だと言えます。均衡が取れているか迷うことがあれば、時間外手当や判例の項目でも説明したように、まずは「なぜこの手当を支給しているのか?」を明らかにしてみてください。そしてその目的を踏まえて、貴社の非正規の方に対して「〇〇という目的があるから、あなたにはこの手当の支給がない(少ない)」と説明し、納得してもらえるかを考えてみるとよいでしょう。


2.雇入れ時の義務
 ここまでは適切な待遇差というものについて述べてきましたが、短時間・有期雇用労働者を採用する時に説明しなければならない事柄が法律で決まっているので紹介します。待遇差や同一労働同一賃金とは異なるので、ここでは簡潔に述べたいと思います。

(1)特定事項の明示
 パートタイム・有期雇用労働法6条では、雇入れ時に以下の4つの事項(特定事項と言います)の明示をしなければならないと定められています。具体的には

・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

を明示する必要があります。

(2)事業主が講ずる措置の内容等の説明
 同法第14条に定められている項目で、具体的には、下記のそれぞれに関し事業主が講ずることとしている措置の内容を説明する必要があります。

・不合理な待遇の禁止
・差別的取扱いの禁止
・賃金
・教育訓練
・福利厚生施設
・通常の労働者への転換

 また、非正規の方から求めがあった時は、以下の事柄に関する決定に際して考慮した事項について説明する義務もあります。

・不合理な待遇の禁止等の上記6事項
・労働条件に関する文書の交付等
・就業規則の作成の手続

 なお、労働基準法第15条で定められている労働契約の期間等の事項の明示は、正社員のみならず短時間・有期雇用労働者も対象になります。


3.注意点
 その他、ガイドラインはあくまで例にすぎないことも考慮しましょう。ガイドラインに載っていない退職金や住宅手当はどうするのかという問題もあります。極論、裁判所はガイドラインではなく法律に基づいて判決を下すので、待遇差については「その他」の事情も考慮されるこを合わせると、ガイドラインに載っている以上に慎重に判断すべき場面もあるでしょう。
 よって実務的には、正社員と短時間・有期雇用労働者との間の待遇の差を必要以上に作らないように心がけるとよいと言えます(とはいえ、業務内容等が異なるのに待遇が同じ、ということもできません)。

Ⅴ.まとめ

 ここまで説明してきたように、同一労働同一賃金のための正社員と短時間・有期雇用労働者との待遇差は細部まで気をつかうものです。ですがこれを機に、今まで社員の方に払ってきた賃金について、「なぜ正社員かどうかで差があるのか?」「なぜこの金額なのか?」「そもそもなぜ支払っているのか?」を考え、人事制度の合理化につながればと思います。
 また、最も大切なことは働く皆さんが納得のできる給料体系になっているかということです。パートタイム・有期雇用労働法の目的は「均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができる」ようにすること、つまり様々なバックグラウンドを持つ労働者ががんばって働けるようにし、ひいては世の中や経済をもっと活性化しよう、ということです。
 この記事を通じて、社員の皆さん一人ひとりがいきいきと働ける職場作りに貢献できれば幸いです。

◇補足◇
その他判例は以下のものがあります。
・ハマキョウレックス事件 最高裁H30.6.1
・長澤運輸事件 最高裁H30.6.1
・メトロコマース事件 最高裁R2.10.13
・日本郵便(東京)事件 最高裁R2.10.15
・日本郵便(大阪)事件 最高裁R2.10.15


※1 厚生労働省HP 001246985.pdf
   その他、概要版もあります(001246983.pdf )やリーフレット(000824262.pdf )も参考にしてください。
※2 最高裁R2.10.13
※3 大阪高裁H31.2.15
※3 厚生労働省HP 前半:001010522.pdf (mhlw.go.jp) 後半:001010525.pdf (mhlw.go.jp)

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