書類の届出 ~従業員が一定の年齢に達した時~
このページでは、従業員が一定の年齢に達した時に行う届出について説明します。どのタイミングでどのような届出をするのかの紹介が主な目的ですので、具体的な届出方法については、各ページをご覧ください。資格取得届はこちらのページ、資格喪失届はこちらのページ、随時改定はこちらのページにて説明しています。
Ⅰ.誕生日に年をとらない?
私たちは、年齢が上がる日はいつかと聞かれれば誕生日を答えます。しかし法律上はそうではありません。日常生活と法律とでは、年を取るタイミングが違うのです。例をあげて説明すると、4月8日が誕生日の人がいるとします。この人が2024年7月時点で30歳であれば、31歳になる日は、普通に考えると2025年の4月8日です。前日の4月7日に誕生日パーティーをすることは基本的にないでしょう。
しかし法律では、誕生日の前日に年齢が上がります。その理由を説明します。
1.根拠になる法律
年齢の数え方は、2つの法律が根拠になっています。一つは、「明治三十五年法律第五十号(年齢計算ニ関スル法律)」です。ここでは、以下の条文があります。
① 年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス
② 民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス
簡単に言うと、年齢を数える時は誕生日を初日(=起算日)とする、つまり上の例では4月8日が一日目、4月9日が二日目ということです。そしてこのカウントの仕方は、民法第143条において準用されます。この民法第143条がもう一つの根拠となる法律です。条文中には、以下の文言があります。
週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
「ただし」以降の条文に注目してください。民法では、起算日に応当する日の「前日」に一年間が満了する、とあります。つまり上の例では4月8日の前日、4月7日(正確には午後12時)に一年が経過するので、誕生日の前日に年齢を一つ重ねることになるのです。なお、時間的には4月8日の午前0時と同じですが、法律上はあくまで4月7日とみなされます。
法律で誕生日に特に気をつけなくてはならないのは、各月の1日が誕生日の場合です。たとえば2月1日が誕生日であれば、法律上、年を取るのは1月31日です。条文で〇〇歳に達した月に書類を提出する、という決まりがあれば、書類を出すのは2月ではなく1月ですので、注意が必要です。
以下で本題の、従業員の年齢と提出書類について説明します。
Ⅱ.40歳に達した時
従業員が40歳になると、介護保険第2号被保険者の資格を取得するため、介護保険料が徴収されます。特に提出書類はありませんが、従業員に介護保険料の控除が始まることは伝えておいた方がよいでしょう。
くどいようですが、2月1日が誕生日で39歳の方は、1月31日に40歳になります。よって、保険料の徴収が始まるのは2月ではなく1月からとなります。2月2日が誕生日であれば、徴収が始まるのは2月です。
なお、介護保険は国内居住者が対象ですので、海外転勤等で国内に住所を有しなくなった、あるいはまた日本に戻ってきた場合は「介護保険 適用除外等該当・非該当届」の提出が必要です。
介護保険法第9条
健康保険法第156条、同施行規則第40条・第41条
Ⅲ.60歳以上で退職し、再雇用した時
従業員が60歳以上で退職し、再雇用された場合、給料が下がることがあります。健康保険、厚生年金保険の保険料は退職前の給料に基づき計算されるので、中には保険料の負担を重く感じる方もいます。数ヶ月待てば、随時改定等で保険料は引き下げられますが、再雇用後すぐに保険料を引き下げたい場合は、以下の方法を取ることができます。
1.提出書類および方法
「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」と、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を提出します。この時、資格喪失日と資格取得日を同じ日にします。
2.添付書類 以下の2パターンあります。
①以下の両方を提出します。
・就業規則、退職辞令の写し(退職日の確認ができるものに限ります)
・雇用契約書の写し(継続して再雇用されたことが分かるものに限ります)
②「退職日」および「再雇用された日」に関する事業主の証明書(特に決まった様式はありません)
3.効果
・被保険者資格を取得した月から、低下後の報酬にもとづいた保険料が徴収されます。
・雇用関係に一日の空白もないため、労働基準法の有給休暇の付与等において不利益(雇用期間がリセットされる等)は発生しません。
Ⅳ.65歳に達した時
従業員が65歳になると、介護保険第1号被保険者の資格を取得し、介護保険料は基本的に年金から天引きされるようになります。40歳になった時と同じく、徴収方法が変わることを従業員に伝えておいた方がよいでしょう。提出書類は特にありません。
ただし、65歳になった年の年度末までは従業員が納付書により納付し、それ以降も年金の総額が年間で18万円に満たなければ※、引き続き納付書により納付することになります。なお、年金は国民年金や厚生年金を合わせた額で、老齢以外の年金も含まれます。
介護保険法第129条・第131条・第132条・第134条・第135条、同施行令第41条
Ⅴ.70歳に達した時
従業員が70歳になると、その旨を届け出る必要があります。70歳になると厚生年金保険の被保険者でなくなるからです。ただし、全員が対象となるわけではありません。
1.対象者 70歳に到達した日時点の報酬で計算した標準報酬月額が、70歳到達日の前日における標準報酬月額と異なる者
2.提出書類 厚生年金保険 被保険者資格喪失届 / 厚生年金保険 70歳以上被用者該当届(70歳到達届とも言います)
3.提出先 管轄年金事務所
4.提出時期 70 歳に到達した日から5日以内
5.その他
・届出の用紙は、事前に年金事務所から送付されます。
・70歳になる前後で標準報酬月額が同じであれば、書類の提出は不要です。
・この届は、在職老齢年金(年金と給与との調整)のために用いられます。
・健康保険については、要件さえ満たしていれば、引き続き被保険者のままです。
厚生年金保険法第27条、同施行規則第15条の2
Ⅵ.70歳以上の従業員にかかる事務
ここでは70歳以上の従業員にかかる厚生年金保険の事務について説明します。70歳に到達していれば被保険者ではなくなりますが、「70歳以上被用者」としての事務手続きが必要になります。書類作成時には被保険者ではなく70歳以上被用者である、ということを押さえれば間違えることはないでしょう。
なお、書類の提出先や提出期間等は、通常の資格取得届や喪失届と同じですので割愛しています。また、書類名を見ると2つあるように見えますが、いずれも1枚の様式になっています。
1.70歳以上の方を採用する時
(1)対象者の要件 以下の2つを満たせば対象になります。
・過去に厚生年金保険の被保険者であった期間があること
・年齢以外は厚生年金保険の加入要件を満たしていること
(2)提出書類 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 / 厚生年金保険 70 歳以上被用者該当届
(3)その他 厚生年金保険 被保険者資格喪失届 / 厚生年金保険 70歳以上被用者該当届(70歳到達届)とは別の書類ですのでご注意ください。
2.70歳以上の方が退職する時
(1)対象者の要件 以下のどちらかに当てはまれば対象になります。
・「厚生年金保険 70 歳以上被用者該当届」を提出していること
・厚生年金保険の被保険者で在職中に70 歳になったが、標準報酬月額が変わらないことが理由で「厚生年金保険 70 歳以上被用者該当届」を提出していないこと
(2)提出書類 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届 / 厚生年金保険 70 歳以上被用者不該当届
3.70歳以上の方の報酬が大幅に変動した時
(1)対象者の要件 以下のどちらかに当てはまれば対象になります。
・「厚生年金保険 70 歳以上被用者該当届」を提出していること
・厚生年金保険の被保険者で在職中に70 歳になったが、標準報酬月額が変わらないことが理由で「厚生年金保険 70 歳以上被用者該当届」を提出していないこと
(2)提出書類 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届 / 厚生年金保険 70 歳以上被用者月額変更届
(3)その他
・報酬の大幅な変動の定義は、通常の随時改定と同じです。
・70歳以上でも定時決定もありますが、通常のものとあまり変わらず、また用紙は年金事務所から送られて来るため、説明は省略します。
厚生年金保険法第23条・第27条、同施行規則第15条の2・第19条・第22条の2
Ⅶ.75歳に達した時
厚生年金は従業員が70歳に到達した日に資格を喪失しますが、健康保険は75歳になると資格を喪失します。よって、従業員が75歳になった時は、健康保険の資格喪失の手続きをします(上記の70歳以上の従業員にかかる書類は、すべて厚生年金のものです)。
なお、書類の提出先や提出期間等は、通常の資格喪失届と同じですので割愛しています。
1.提出書類 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届 / 厚生年金保険 70 歳以上被用者不該当届
2.その他
・書類中の資格の喪失原因は「75歳到達」を選びます。
・75歳以降は後期高齢者医療の被保険者となります。
・被扶養者も協会けんぽから外れる場合(従業員が協会けんぽの被保険者でなくなるため)、別途、被扶養者についての手続きが必要になります。
・従業員が75歳未満でも、被扶養者が75歳以上になると後期高齢者医療の被保険者となるため、異動の手続きが必要になります。
健康保険法第3条・第36条・第48条、同施行規則第29条
高齢者の医療の確保に関する法律第50条
※ その他、転居時等も納付書により納付することになります。