育児にかかる休業その他の制度や事務
このぺージでは育児にかかる制度や事務について説明します。主に育児介護休業法の制度の紹介をしますので、労働基準法の育児時間についてはこちらのページを、また、産前や出産時についてはこちらのページをご覧ください。なお、役員は労働者ではないので、兼務役員ではない限り休業取得の対象となりません。
育児休業給付については、こちらのページをご覧ください。
Ⅰ.育児休業
まずは育児介護休業法の育児休業について説明します。基本的に説明文中の「子ども」は労働者が育てる、同じ子どもを指します。補足がない限り、兄弟がいるうちのもう一方であるとか、後に新しく生まれた子どもということはありません。
1.対象となる者
(1)労働者(親)
以下の要件を満たせば育児休業を取得できます。
・日々雇用される者ではないこと
・期間を定めて雇用される者にあっては、子どもが1歳6ヶ月に達する日までに、労働契約が満了することが明らかでないこと(労働契約が更新される場合は更新後の契約になります)
※子どもが1歳6ヶ月から2歳に達するまで休業にあっては、子どもが2歳に達する日までに、労働契約(更新後のものを含む)が満了することが明らかでないこと
(2)労使協定で除外できる場合
過半数労使協定を結べば、一定の労働者を育児休業の取得対象外とすることができます。具体的には、過半数労組等との協定により、以下の者を適用除外にできます。すべてではなく、どれか一つに当てはまる者を対象外にする内容でも構いません。
・雇用された期間が1年に満たない者
・育児休業申出があった日から起算して1年(1歳6ヶ月または2歳に満たない子どもにかかる育児休業の申出にあっては6ヶ月)以内に雇用関係が終了することが明らかな者
・週所定労働日数が2日以下の者
(3)子ども
実子のみならず、特別養子縁組の監護期間にある子ども等も対象になります。
育児介護休業法第2条・第5条・第6条、同施行規則第8条
2.育児休業のできる期間
(1)原則
育児休業を取得できる期間は、原則として子どもが1歳になるまでの一年間です。育児休業は法律で、1歳に満たない子どもにかかるものに限られているからです。なお、母親については産休も含めて一年間となります。
(2)子どもが1歳2ヶ月になるまで育児休業を取得できる場合
雇用する労働者と、その配偶者の両方が育児休業を取得していれば、1歳2ヶ月に満たない子どもの育児休業が可能になります。ただしこの場合も、育児休業を取得できる期間は一年間です。
育児介護休業法第5条・第9条の6
3.1歳6ヶ月または2歳に満たない子どもにかかる育児休業
上記の通り原則として子どもが1歳(または1歳2ヶ月)になれば育児休業は終了します。しかし原則として以下の要件をすべて満たせば、1歳6ヶ月 / 2歳になるまでの子どもについて育児休業を取得することができます。
なお、( )内は1歳6ヶ月~2歳未満の子どもについての要件になります。
(1)子どもが1歳(1歳6ヶ月)に到達した日において、労働者またはその配偶者が育児休業をしていること。
(2)1歳(1歳6ヶ月)以降の育児休業を取得したことがないこと。
(3)雇用の継続のために特に必要と認められる場合として、以下のいずれかに該当すること
・保育所等の利用を希望し、申込みを行っているが、入所できない場合
・労働者の配偶者が、負傷、疾病、身体上もしくは精神上の障害により、子どもの養育が困難な状態にある場合
・労働者の配偶者が、婚姻の解消等により子どもと同居しないこととなった場合
・労働者の配偶者が、出産6週間前(多胎妊娠は14週間)から産後8週間の間にある場合
・その他の事情
育児介護休業法第5条、同施行規則第6条・第条
4.育児休業のできる回数
(1)1歳までの育児休業
子どもが1歳になるまでの育児休業は、2回まで取得できます。ただし以下の特別の事情のある場合は、その限りではありません。
・子どもが負傷、疾病、身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり世話を必要とする状態になった場合
・上記(3)-③のいずれかに該当する場合(出産前後の規定は除きます。その他の事情については、内容が異なる部分もあります)
(2)1歳6ヶ月 / 2歳までの育児休業
取得回数は1回だけです。ただし特別の事情のある場合は、その限りではありません(1歳になるまでの育児休業で2回を超える取得とは少し条件が異なります)。
育児介護休業法第5条、同施行規則第5条
5.申出についての決まり
育児休業の申出について様々な決まりがありますが、主のものは以下の通りです。
・育児休業の申出は、開始予定日の1ヶ月前(1歳以降の休業は2週間前)までにする必要があります。
※そうでなければ事業主は予定日を別の日に指定することができます(下記参照)。
・育児休業は、開始予定日および終了予定日を明らかにして申出をしなければなりません。
・育児休業の申出は、書面等によらなければなりません。詳しくは、下記Ⅲ‐2の「通知」の項目をご覧ください。
・事業主は、労働者から育児休業の申出があった時は、これを拒むことができません。
※出生時育児休業と異なり、分割取得する場合にまとめて申し出る必要はありません。
育児介護休業法第5条・第6条、同施行規則第7条
6.育児休業の開始予定日の指定、変更、撤廃
育児休業の開始予定日について、事業主は予定日の指定を、労働者はその変更、撤廃をすることができます。様々な決まりがありますので、主なものを紹介します。
(1)開始予定日の指定
育児休業の申出は原則として拒否できませんが、一定の場合は事業主側で開始日を指定できます。例外はありますが、具体的には以下の決まりがあります。
・事業主は、労働者から育児休業申出があった場合において、開始予定日が申出があった日の翌日から起算して1ヶ月を経過する日(「1ヶ月経過日」と言います)より前の日であるときは、開始予定日から1ヶ月経過日までのいずれかの日を、育児休業の開始予定日として指定することができます。
・1歳6ヶ月または2歳に満たない子どもにかかる育児休業の場合は、上の規定は「1ヶ月を経過する日」ではなく「2週間を経過する日」になります(子どもが1歳6ヶ月または2歳になるまでに申し出た場合に限ります)。
・一定の場合(申出の日前までに子どもが出産予定日より前に生まれた等)は、「開始予定日から1ヶ月を経過する日まで」ではなく、「申出のあった日の翌日から起算して1週間を経過する日までのいずれかの日」に指定しなければなりません
1ヶ月経過日について説明します。日にちの例をあげると、4月1日に4月10日から育児休業をスタートする申出があった場合、事業主は4月1日の翌日の4月2日から5月1日(=翌日起算で1ヶ月を経過する日)までのいずれかの日に休業開始日を指定することができます。
また、指定する際、一定の方法で労働者に通知する必要があります。開始予定日の変更があった際も、同じ要件に当てはまれば、変更後の予定日を指定することができます。
(2)開始予定日の変更
(1)とは反対に労働者の側でも、開始予定日を変更することができます。具体的には以下の決まりがあります。
①開始予定日の前日までに、以下のいずれかのことが起こった場合に変更できます。
・出産予定日より前に子どもが生まれたこと
・保育所等の利用を希望し、申込みを行っているが、入所できない場合
・労働者の配偶者が、負傷、疾病により、子どもの養育が困難になったこと、または子どもと同居しないこととなったこと
・子どもが負傷、疾病、身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり世話を必要とする状態になったこと
②変更は1回のみです。前倒しのみで、開始予定日より前の日に変更できます。
③事業主側で開始予定日を指定できます(指定についての規定は上記(1)とは少し異なります)。
(3)終了予定日の変更
労働者の側で、終了予定日を変更することもできます。具体的には以下の決まりがあります。
・終了予定日の1ヶ月前までに申し出なければなりません。
・変更は1回のみです。後ろ倒しのみで、終了予定日より後の日に変更できます。
(4)育児休業の申出の撤回
労働者の側で、育児休業の申出を撤回することができます。具体的には以下の決まりがあります。
・開始予定日の前日までに申し出なければなりません
・撤回をしても、育児休業を1回取得したことになります。
・1歳6ヶ月 / 2歳までの育児休業は、撤回をすると取得できなくなります(1回しか取れないためですが、特別な事情がある場合を除きます)。
なお、開始予定日の前日までに一定の事由が起こった場合は、申出はされなかったものとみなされ、取得や撤回の扱いにはなりません。
育児介護休業法第6~8条、同施行規則第10~20条
7.育児休業の終了
労働者が以下のいずれかに該当する場合、育児休業は終了予定日より前に終了します。
・新しく生まれる子どもにかかる産前産後の休業や(出生時)育児休業の取得
・介護休業の取得
・負傷や疾病、身体上もしくは精神上の障害により、子どもが1歳(1歳6ヶ月 / 2歳)に達するまでの間、子どもを育てることができない状態になったこと
・その他の事情
育児介護休業法第9条、同施行規則第21条
Ⅱ.出生時育児休業
育児休業とは別に、「出生時」育児休業という制度もあります。これはその名の通り、子どもが生まれてすぐの期間に取ることができるものです。概要は以下の通りです。
1.取得できる者 基本的な考え方は通常の育児休業とあまり変わりません。以下の通りです。
・日々雇用される者ではないこと
・期間を定めて雇用される者にあっては、子どもの出生(予定)の日から起算して8週間を経過する日の翌日から6ヶ月を経過する日までに、労働契約が満了することが明らかでないこと
・過半数労組等との労使協定で一定の労働者を除外できます。対象になる労働者は、通常の育児休業の規定と同じです。
育児介護休業法第2条・第9条の2・第9条の3、同施行規則第21条の3・第21条の4
2.休業を取得できる期間 子どもの出生日(出生予定日の方が遅ければ出生予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日まで(産後休業の期間と重なります)
育児介護休業法第9条の2
3.休業日数 4週間(28日)以内
育児介護休業法第9条の2
4.取得回数
2回まで分割取得ができます。なお、開始予定日の前日までに一定の事由が起こった場合は、申出はされなかったものとみなされます。通常の育児休業と同様、1回取得の扱いにはなりません。
育児介護休業法第9条の2・第9条の4、同施行規則第21条の14
5.申出についての決まり
基本的に通常の育児休業と同じです。ただし、2回に分けて取得する場合は初回の取得時にまとめて申し出る必要があります。労働者が初回の申出の後に2回目の申出をした場合、事業主は2回目のものについては拒むことができます。
育児介護休業法第9条の2・第9条の3、同施行規則第21条の2
6.開始予定日の指定
大まかな考え方は通常の育児休業と同じです。具体的には以下の通りです。
・開始予定日が申出があった日の翌日から起算して2週間を経過する日より前の日であるときは、事業主が指定できます。
・一定の事項を定めた労使協定を結べば、「2週間」を2週間超~1ヶ月以内のいずれかの期間に変えることができます。
なお、開始予定日が変更された場合も、変更後の予定日を指定することができます。
育児介護休業法第9条の3・第9条の4、同施行規則第21条の5~7・第21条の9・第21条の10
7.開始 / 終了予定日の変更、撤回
基本的に通常の育児休業と同じです。ただし、 終了予定日の変更は、終了予定日の2週間前に申し出る必要があります。
育児介護休業法第9条の4、同施行規則第21条の8・第21条の11・第21条の12~13
8.就業可能日
通常の育児休業と異なり、休業期間中に就業できる制度があります。具体的には以下の決まりがあります。
・過半数労組等と労使協定を結ぶこと
・まず協定の対象になる労働者が、就業が可能な日や時間帯、その他労働条件を申し出ること(休業の開始予定日の前日までは変更、撤回も可能です)
・事業主が労働者の申出の範囲内で就業日時を提示し、労働者の同意を得ること(日数や労働時間、同意の方法には一定の決まりがあります。また、労働者は一定の場合、同意を撤回できます)
・就業日数(または就業日の労働時間)の合計が、出生時育児休業期間の所定労働日数(労働時間)の1 / 2以下であること(労働日数の1 / 2について、一日未満の端数は切り捨て)
※その他、出生時育児休業の開始予定日や終了予定日の労働時間数についても決まりがあります。
ただし、一定の日数や時間を超えると雇用保険の給付金が支給されなくなるのでお気をつけください。詳しくはこちらのページの出生時育児休業給付金の項目をご覧ください。
育児介護休業法第9条の5、同施行規則第21条の15~第21条の19
9.出生時育児休業の終了
育児休業は、労働者が以下の事由に該当する場合、出生時育児休業は終了予定日より前に終了します。
・新しく生まれる子どもにかかる産前産後の休業や(出生時)育児休業の取得
・介護休業の取得
・負傷や疾病、身体上もしくは精神上の障害により、子どもの出生(予定)の日から起算して8週間を経過する日の翌日まで、子どもを育てることができない状態になったこと
・その他の事情
育児介護休業法第9条の5、同施行規則第21条の20
Ⅲ.不利益な取扱いの禁止等
1.不利益な取扱いの禁止
他の様々な法律と同様、育児休業についても、労働者に対する不利益な取扱いの禁止が定められています。具体的には、事業主は以下のことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない、という決まりがあります。
・労働者が(出生時)育児休業の申出をしたこと、または実際に育児休業をしたこと
・出生時育児休業において、就業可能日等の申出をしたことや、申出をしなかったこと、または申出が事業主の意に反するものであったこと
・出生時育児休業において、就業可能日等の変更や撤回をしたことや、事業主による就業日時の提示に労働者が同意しなかったこと
育児介護休業法第10条、同施行規則第22条の2
2.通知
労働者が育児休業の申出をする際は事業主に、事業主が育児休業の申出を受けた際は労働者に、法律で定められた方法や内容で通知しなければなりません。通知は申出の変更があった時等、多くの場面で必要になるので、ここでその方法を紹介します。具体的には以下のいずれかの方法で行わなければなりません(中には、書面のみでの通知しかできないものもあります)。
・書面
・ファクシミリ(労働者が希望する場合に限る)
・電子メール等(労働者が希望する場合に限る)
最後の電子メール等は、法律では「当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る」とされていますが、要はプリントアウトして書面にできる、ということです。
なお、ファクシミリや電子メール等は、相手が実際に見た時ではなく、受信した事業に相手に到達したものとみなされます。
育児介護休業法第8条等、同施行規則第7条等
Ⅳ.子の看護休暇
育児休業以外にも、労働者が子どもの世話をする等の理由であれば、休暇を取ることが認められています。これを「子の看護休暇」と言います
1.対象になる子ども 小学校就学の始期(=小学校に入学する年度の4月1日)に達するまでの子ども
2.取得できる労働者 通常の育児休業とあまり変わりません。以下の通りです。
・日々雇用される者ではないこと
過半数労組等との過半数労使協定を結べば、一定の労働者を子の看護休暇の取得対象外とすることができます。具体的には、以下の者を適用除外にできます。すべてではなく、どれか一つに当てはまる者を対象外にする内容でも構いません。
・雇用された期間が6ヶ月に満たない者
・週所定労働日数が2日以下の者
・業務の性質や実施体制に照らして、時間単位で休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する者(この要件により認められないのは、時間単位での取得のみです。よって、日単位での取得はできます)
※育児休業と異なり、「申出があった日から〇〇以内に雇用関係が終了することが明らか」という要件はありません(以下の規定でも同じです)。
3.看護休暇を取れる場合 下記のいずれかを行う場合に取得できます。
・負傷や病気にかかった子どもの世話
・疾病の予防を図るために必要なもの(=予防接種や健康診断を受けさせること)
4.休暇の日数
一年度あたり、最大で以下の日数を取得できます。なお、法律上は年度は4月1日~翌年3月31日の一年間となっていますが、就業規則で4月1日からとは異なる期間にすることもできます。
(1)子どもが1人の場合 5日
(2)子どもが2人以上の場合 10日(3人以上でも10日です)
5.休暇の取得単位 下記のいずれかになります。
(1)一日単位
(2)一時間単位
①時間数
一時間単位での取得を認める時の時間数は、所定労働時間によります。たとえば所定労働時間が8時間であれば休暇8時間で一日分の休暇を取得したことになります。
なお、分単位は切り上げになるので、所定労働時間が7時間30分であれば休暇は8時間になります。
②使い方
時間単位で利用する場合は、始業の時刻から連続し、又は終業の時刻まで連続するようにする必要があります。たとえば9時始業であれば9~10時や、9~11時という具合です。
なお、8時30分始業で12時~13時まで休憩の事業所で、休暇を4時間取得する場合、就業は13時30分からとなります。休憩時間は看護休暇の時間に含めません。
6.申出についての決まり 基本的に通常の育児休業と同じです。時間単位の取得であれば何時から何時までかも明らかにする必要があります。
7.不利益な取扱いの禁止
事業主は、労働者が子の看護休暇の申出をし、または子の看護休暇をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
育児介護休業法第2条・第16条の2~第16条の4、同施行規則第32条~第37条
Ⅴ.所定外労働の制限
この制度は、労働者が請求した場合に適用されるものです。主な決まりは以下の通りです。
1.制限される内容
事業主は、この制度の請求をした労働者について、所定労働時間を超えて労働させることができなくなります。なお、法定の労働時間(1日8時間等)ではなく、各事業所で定めた所定労働時間を超えてはいけないということなのでお気をつけください。
なお、法定労働時間についての制限は下記Ⅵで説明します。
2.対象になる子ども 3歳に満たない子ども
3.請求できる労働者
・日々雇用される者ではないこと
過半数労組等と労使協定を結べば、一定の労働者を所定時間外労働の制限の対象外とすることができます。具体的には、以下の者を除外できます。すべてではなく、どれか一つに当てはまる者を対象外にする内容でも構いません。
・雇用された期間が1年に満たない者
・週所定労働日数が2日以下の者
4.請求についての決まり
基本的には通常の育児休業と同じです。労働者は、制限開始予定日の1ヶ月前までに所定時間外労働が制限される期間(1ヶ月以上~1年以内)を明らかにして、請求しなければなりません。
ただし、以下の点において大きく異なります。
・事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は請求を拒否できます。
・上記の制限期間は、下記「時間外労働の制限」にかかる期間と重複してはなりません。
5.不利益な取扱いの禁止
事業主は、労働者が所定外労働の制限の請求をしたことや、この請求により所定労働時間を超えて労働させてはならない場合にこれを超えて労働しなかったことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
育児介護休業法第2条・第16条の8・第16条の10、同施行規則第44条~第47条
Ⅵ.時間外労働の制限
この制度は、労働者が請求した場合に適用されるものです。主な決まりは以下の通りです。
1.制限される内容
事業主は、この制度の請求をした労働者について、一定限度を超えて、法定労働時間を超えた労働をさせることができなくなります。所定時間外労働の制限と異なり、時間外労働(=残業)自体は可能です。具体的には、法定労働時間につき、下記の時間を超えて働かせることはできません。
・1ヶ月につき 24時間
・1年につき 150時間
(上2つを併せて「制限時間」と言います)
なお、法律上は法定労働時間を超えられるのは、1ヶ月につき45時間、1年につき360時間以内です(実際は36協定の内容等により異なります)。
2.対象になる子ども 小学校就学の始期(=小学校に入学する年度の4月1日)に達するまでの子ども
3.請求できる労働者
以下の要件のいずれにも当てはまらなければ請求できます。
・日々雇用される者
・雇用された期間が1年に満たない者
・週所定労働日数が2日以下の者
上記の育児休業や子の看護休暇、所定時間外労働の制限と異なり、雇用期間が1年未満等の者は、労使協定の締結なしに除外されます。残業ができる分、休業や所定時間外労働の制限よりも除外をするための要件が緩い、と考えれば理解しやすいと思います。
4.請求についての決まり 基本的には所定外労働の制限と同じです。
5.不利益な取扱いの禁止
事業主は、労働者が法定の時間外労働の制限の請求をしたことや、この請求により制限時間を超えて労働させてはならない場合にこれを超えて労働しなかったことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
育児介護休業法第2条・第17条・第18条の2、同施行規則第52条~第56条
労働基準法第36条・附則第133条、同施行規則第67条
Ⅶ.深夜業の制限
この制度は、労働者が請求した場合に適用されるものです。詳しくは以下の通りです。
1.制限される内容
事業主は、この制度の請求をした労働者について、深夜に労働をさせることができなくなります。具体的には、下記の時間帯に働かせることはできません。
・午後10時~午前5時
2.対象になる子ども 小学校就学の始期(=小学校に入学する年度の4月1日)に達するまでの子ども
3.請求できる労働者
以下の要件のいずれにも当てはまらなければ請求できます。
(1)日々雇用される者
(2)雇用された期間が1年に満たない者
(3)以下の要件に当てはまる同居の家族が一人でもいる者
①常態として子を保育することができる者
②下記のいずれにも当てはまる者
・16歳以上であること
・深夜において就業していないこと(深夜における就業日数が1ヶ月につき3日以下の者を含む)
・負傷、疾病、または身体上もしくは精神上の障害により、子どもを保育することが困難な状態にある者ではないこと
・出産6週間前(多胎妊娠は14週間)から産後8週間の間にあること
(4)週所定労働日数が2日以下の者
(5)所定労働時間の全部が深夜にある者
複雑ですが、分かりやすくするために大雑把に説明すると、深夜業の制限を請求できるのは、上の(1)~(5)が一つも当てはまらない、他に子どもの面倒を見れる者がいない労働者ということになります。
なお、(3)の家族とは配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、親族のことを言い、父母は配偶者の父母も含みます。また、時間外労働の制限と同様、労使協定による除外の規定はありません。
4.請求についての決まり
基本的には所定外労働の制限や時間外労働の制限と同じです。ただし、以下の点において大きく異なります。
・深夜業が制限される期間は1ヶ月以上~6ヶ月以内に限られます。
5.不利益な取扱いの禁止
事業主は、労働者が深夜業の制限の請求をしたことや、この請求により深夜業に労働させてはならない場合に深夜に労働しなかったことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
育児介護休業法第2条・第19条・第20条の2、同施行規則第3条・第4条・第60条~第64
Ⅷ.所定労働時間の短縮措置等
事業主は、その雇用する労働者が子どもを養うにあたり、休業や休暇、労働時間の制限のみならず、所定労働時間の短縮(以下、時短とします)の措置を講じる義務もあります。具体的には以下の通りです。
1.対象になる子ども 3歳に満たない子ども
2.申出のできる労働者
以下のいずれにも該当しなければ、時短を申し出ることができます。
・日々雇用される者
・一日の所定労働時間が6時間以下の者
過半数労組等との過半数労使協定を結べば、一定の労働者を時短の取得対象外とすることができます。具体的には、以下の者を適用除外にできます。すべてではなく、どれか一つに当てはまる者を対象外にする内容でも構いません。
・雇用された期間が1年に満たない者
・週所定労働日数が2日以下の者
・業務の性質や実施体制に照らして、育児のための所定労働時間の短縮措置を構ずることが困難と認められる業務に従事する者
3.時短措置の内容
事業主は、就業と子育てを両立させることが容易になるよう、時短のための措置を定めなければなりません。どのような内容とするかは各事業主での判断になりますが、一つだけ、下のような決まりがあります。
・一日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含むものとしなければなりません。
よって、これにプラスして一日の所定労働時間を4時間や7時間に短縮する制度を作ることもできます。なお、上の決まりが、一日の所定労働時間が6時間以下の者が時短の対象外になる理由です。
4.時短の措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する者に対する措置
上記の通り、労使協定を結ぶことにより、業務の性質等に照らして時短の措置を構ずることが困難と認められる業務に就く者は、その対象外になります。しかしこれでは仕事と子育ての両立が難しくなることも考えられるため、上の規定で時短の対象外となっている者に対し、以下のいずれかの措置を構ずる義務があります。
①育児休業に関する制度に準ずる措置
②下のいずれかの措置(「始業時刻変更等の措置」と言います)
・フレックスタイム制度を設けること
・一日の所定労働時間を変更することなく始業時刻を繰り上げたり、終業の時刻を繰り下げたりする制度を設けること
・3歳に満たない子に係る保育施設の設置運営、その他これに準ずる便宜の供与を行うこと
育児介護休業法第2条・第23条・第23条の2、同施行規則第72条、第74条
労働基準法第32条の3
5.不利益な取扱いの禁止
事業主は、労働者が所定労働時間の短縮や始業時刻変更等の措置の申出をしたこと、またはその措置が講じられたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
育児介護休業法第23条の2
Ⅸ.育休、時短等の努力義務
上記の(出生時)育児休業や労働時間の制限、時短措置はいずれも義務でしたが、育児休業の取得の有無や子どもの年齢によてっては、これらが努力義務となる場合もあります。具体的には以下の通りです。
なお、努力義務となる措置は、そこに記載している制度や措置に準じた、必要な措置のことを言います。まったく同じ内容でなければならないわけではありません。
1.子どもが1歳(1歳6ヶ月 / 2歳に満たない子どもの育児休業を取得している場合は1歳6ヶ月 / 2歳)に満たない場合
(1)対象になる労働者 日々雇用される者ではなく、育児休業を取得していない者
(2)努力義務となる措置 以下の2つがあります。
・育児目的休暇(下記Ⅹ‐8で詳述しています)
・始業時刻変更等の措置(上記Ⅷ‐4‐②の措置のことです)
この規定は言い換えると、上記Ⅷ‐4‐②の措置は「業務の性質や実施体制に照らして、育児のための所定労働時間の短縮措置を構ずることが困難と認められる業務に従事する者」を労使協定で時短措置の対象外とした場合に行わなければならないものですが、それに当てはまらなくても育児休業を取得していない者がいれば、その人が使えるようにするよう努めてください、ということです。
2.子どもが1歳(1歳6ヶ月 / 2歳に満たない子どもの育児休業を取得している場合は1歳6ヶ月 / 2歳)から3歳に達するまでの場合
(1)対象になる労働者 日々雇用される者ではない者
(2)努力義務となる措置 以下の3つがあります。
・育児目的休暇(下記Ⅹ‐8)
・育児休業に関する制度
・始業時刻変更等の措置(上記Ⅷ‐4‐②の措置のことです)
この規定は言い換えると、法律上は育児休業は子どもが1歳(長くて2歳)になると終了しますが、3歳になるまで使えるよう、事業主側で独自規定として定めるよう努めてください、ということです。
3.子どもが3歳から小学校就学の始期に達するまでの場合
(1)対象になる労働者 日々雇用される者ではない者
(2)努力義務となる措置
・育児目的休暇(下記Ⅹ‐8)
・育児休業に関する制度
・所定時間外労働の制限
・始業時刻変更等の措置(上記Ⅷ‐4‐②の措置のことです)
・時短の措置
この規定は言い換えると、法律上は所定時間外労働の制限や時短の措置は子どもが3歳になると終了しますが、小学校に入るまで使えるよう、事業主側で独自規定として定めるよう努めてください、ということです。
育児介護休業法第2条・第24条
Ⅹ.その他の事業主が講ずべき措置
下記1~5は事業主の義務、それ以降は努力義務となります(法律上、「努めなければならない」とされています)。努力義務ですが、働きやすい職場、言い換えれば従業員が集まりやすく辞めにくい職場作りのために、可能な範囲で実行した方がよいと言えます。
1.妊娠又は出産等についての申出があった場合における措置等
事業主は、労働者が自身またはその配偶者が妊娠、出産等をしたことを申し出たときは、当該労働者に対して、以下の事項を知らせなければなりません。
・育児休業に関する制度や申出先
・雇用保険法の育児休業給付に関することや社会保険料の取扱い
その際、以下の措置を講じなければなりません。
・(出生時)育児休業の申出等に係る労働者の意向を確認するための面談等
なお事業主は、労働者がこの申出をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
育児介護休業法第21条、同施行規則第69条の2~第69条の4
2.育児休業の取得の状況の公表
常時雇用する労働者の数が1,000人を超える事業主は、毎年少なくとも一回、その雇用する労働者の育児休業の取得の状況として厚生労働省令で定めるものを公表しなければなりません。
育児介護休業法第22条の2、同施行規則第71条の3、第71条の4
3.職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等
(1)雇用管理上の措置
事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業その他上記Ⅰ~Ⅷ(いずれも努力義務ではなく義務です)で定めた制度または措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、その相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。
(2)不利益な取扱いの禁止
事業主は、労働者が上記の相談を行ったことや、相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
育児介護休業法第25条、同施行規則第76条
4.労働者の配置に関する配慮
労働者の配置について、以下の決まりがあります。
・事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子どもの養育を行うことが困難となる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育の状況に配慮しなければなりません。
要は、子育て中の子どもがいる労働者に対して、転居の必要な転勤を命じる場合は、子育ての状況も配慮しなければなりませんよ、ということです。この規定は努力義務ではなく義務なので非常に大事な決まりです。詳細は省きますが、実際に夫婦共働きで定期的に子どもの通院が必要な労働者に関して、転勤命令が、配転命令の権利濫用として無効とされた裁判例があります(明治図書出版事件、東京地裁H14.12.27)。
育児介護休業法第26条
5.雇用環境の整備および雇用管理等に関する措置(義務)
事業主は、(出生時)育児休業の申出が円滑に行われるようにするため、その雇用する労働者に対して、次のいずれかの措置を講じなければなりません。
・育児休業にかかる研修の実施
・育児休業に関する相談体制の整備
・その雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集や、収集した事例の提供
・育児休業に関する制度および育児休業の取得の促進に関する方針の周知
育児介護休業法第22条、同施行規則第71条の2
6.雇用環境の整備および雇用管理等に関する措置(努力義務)
事業主は、(出生時)育児休業の申出並びにその休業後における就業が円滑に行われるようにするため、事業所における労働者の配置その他の雇用管理や、休業中の労働者の職業能力の開発や向上等に関して、必要な措置を講ずるよう努めなければなりません。
なお、ここに記載した規定については、「努めなければ」ならないという文言通り、努力義務になります。以下同じです。
育児介護休業法第22条
7.育児休業等に関する定めの周知等の措置
事業主は、あらかじめ次に掲げる事項を定めるとともに、これを労働者に周知させるための措置(労働者やその配偶者の妊娠、出産を知ったときに、当該労働者に対し知らせる措置を含みます)を講ずるよう努めなければなりません。
・労働者の育児休業中における待遇に関する事項
・育児休業後における賃金、配置その他の労働条件に関する事項
・その他の事項
また、事業主は、労働者が(出生時)育児休業の申出をしたときは、上に掲げる事項に関する当該労働者にかかる取扱いを、書面で明示するよう努めなければなりません。
育児介護休業法第21条の2、同施行規則第70条~第71条
8.育児目的休暇
事業主は、その小学校就学の始期に達するまでの子どもを育てる労働者に関して、労働者の申出に基づき、育児に関する目的のために利用することができる休暇を与えるための措置を講ずるよう努めなければなりません。
育児目的とは、配偶者の出産や、子の行事参加等が考えられ、出産後の養育について出産前において準備することができる休暇も含みます。なお、子の看護休暇、年次有給休暇とは別の制度とすることが求められます。
育児介護休業法第24条
労働基準法第39条
9.職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する事業主および労働者の責務
(1)事業主の努力義務
事業主は、「労働者の就業環境を害する、育児休業その他上記Ⅰ~Ⅷで定めた制度または措置の利用に関する言動に起因する問題」(「育児休業等関係言動問題」と言います)に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、上記の問題に関して国が講ずる措置に協力するように努めなければなりません。
また、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければなりません。
(2)労働者の努力義務
労働者は、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる上記3(相談体制の整備等)の措置に協力するように努めなければなりません。
育児介護休業法第25条の2
10.再雇用特別措置等
事業主は、妊娠や出産、育児を理由として退職した者について、必要に応じ、再雇用特別措置その他これに準ずる措置を実施するよう努めなければなりません。
再雇用特別措置とは、上記の退職者であって、その退職の際に、その就業が可能となった時に事業主に再び雇用されることを希望することを申し出ていた者について、当該事業主が、労働者の募集または採用に当たって特別の配慮をする措置を言います。
育児介護休業法第27条
11.職業家庭両立推進者
事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、以下の措置の適切かつ有効な実施を図るための業務を担当する者を選任するように努めなければなりません。
・上記Ⅷ、Ⅸ、Ⅹで定める措置等
・子どもの養育を行っている(これから行うという者も含みます)労働者の、職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために講ずるべきその他の措置
この担当者のことを「職業家庭両立推進者」と言います。なお、職業家庭両立推進者は、その業務を遂行するために必要な知識および経験を有していると認められる者のうちから選ぶものとされています。
育児介護休業法第29条、同施行規則第77条