フリーランスに仕事を依頼したい(どうすれば偽装と認定されない?)

 この投稿ではフリーランスに仕事を依頼するときに、労働者として雇用していると認定されないための要件を説明します。たとえば高い専門性が求められる業務や事業の繁閑に対応する等の一時的な業務を処理する場合、従業員を雇用するのでなくフリーランスに業務委託することがあるでしょう。
 この時、契約や働き方への対応を誤ると、フリーランスではなく労働者と認定され、思わぬ対応を強いられることになります。

Ⅰ.フリーランスと認定されるために

 フリーランスと労働者のどちらに当たるかは実態により判断されます。たとえ業務委託契約書を交わしても、実際の働き方によっては労働者と認定されるケースもあります。
 その場合は社会保険等への加入のみならず、時間外労働や深夜労働に対する賃金支払い義務や有給の付与義務等が発生し、従業員を雇用した時と同様の対応が求められます。

 では、労働者ではなくフリーランスと認定されるにはどうすればよいでしょうか。「労働基準法研究会報告」※1によれば以下の観点から判断されます。

1.「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
(2)報酬の労務対償性に関する判断基準

2.「労働者性」の判断を補強する要素
(3)事業者性の有無
(4)専属性の程度

3.その他

 それぞれの基準について、次項で解説します。

Ⅱ.各基準の説明

1.「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
 この基準は、労働が他人の指揮監督下にあるかどうかというものであり、以下の4つの観点があります。4つすべて、依頼を受ける側から見てどうかということです。

①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諸否の自由の有無
 …仕事の依頼を自由に断ることができるか

②業務遂行上の指揮監督の有無
 …業務の内容や遂行方法について具体的な指揮命令を受けているか

③拘束性の有無
 …勤務場所や勤務時間が指定され、管理されているか

④代替性の有無(補強要素)
 …本人の判断により、他の者が労務を提供すること(再委託等)や、補助者を使うことが認められるか

(2)報酬の労務対償性に関する判断基準
 この基準は、依頼者からの報酬が「賃金」に該当するかどうかというものです。たとえば労働時間に応じて支払い額が変わる、あるいは欠勤すると支払い額が減少する場合、これらの金額は成果に対する報酬ではなく、従業員への賃金と判定されやすくなります。

2.「労働者性」の判断を補強する要素
(3)事業者性の有無
 この基準は、業務を受注した者について、事業者と労働者のどちらの要素が大きいかというであり、以下の観点があります。

①機械や器具の負担関係
 …業務に必要な機械や器具は発注者と受注者のどちらが所有しているか、あるいは受注者所有の場合はそれらが安価か著しく高価か

②報酬の額
 …報酬の額が、発注企業の従業員の賃金と比較して、著しく高額かどうか

③その他
 …業務遂行上の損害に対する責任を負うかどうか、受注者が独自の商号を使えるかどうか等

(4)専属性の程度
 この基準は、特定の企業への専属性が高いかどうかというものです。具体的には他社の業務に従事することが制限されているか、報酬に固定給部分があるか等が判断されます。固定給は生計を維持しうる程度のものであれば、労働者性の要素が大きくなります。

3.その他
 その他の要素として、依頼者が依頼を受ける者を自社の労働者と認識していると推測される点も判断基準になります。たとえば、

・採用や委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様である
・報酬について給与所得としての源泉徴収を行っている
・労働保険の適用対象としていたり、服務規律を適用したりしている
・退職金制度、福利厚生を適用している

といったことが挙げられます。

Ⅲ.裁判例

 上記基準について、横浜南労基署長(旭紙業)事件※2により具体例を交えて説明します。この裁判において、運送請負契約を交わしていたトラック持ち込み運転手が労働者に該当するか否か(さらには、労災保険の適用対象になるか)と、その根拠が述べられています。
 以下、〇は請負事業者(フリーランス)と認められる箇所、☆は労働者と認められる箇所を表します。

1.「使用従属性」に関する判断基準
(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
☆会社から一定の指示を受け、場所的時間的にもある程度拘束がある
〇運転手に対する会社の指示等は一般の従業員に対する指揮監督に較べて範囲は狭く、内容的にも弱い。
〇場所的、時間的拘束も一般の従業員よりは弱い

(2)報酬の労務対償性に関する判断基準
☆報酬は業務の履行に対し払われ、毎月さほど大きな差のない額が支払われていた
〇報酬は出来高払い
〇下記「3.その他」の項目の支払いがないため、従業員として運転手を雇用した場合の給与よりは多額の報酬を支払うことができる

2.「労働者性」の判断を補強する要素
(3)事業者性の有無
〇運送の主要器材であるトラックは運転手が所有
〇運転手が業務の遂行につき危険を負担し、運送に必要な経費(ガソリン代、車両修理代、高速道路料金等)及び事故の場合の損害賠償責任を負担していた
〇運転手本人は従業員ではないと認識

(4)専属性の程度
☆会社の企業組織に組み込まれている

3.その他
〇就業規則は適用されず、福利厚生もない。通常の労働者であれば被保険者とされる労災保険や、雇用保険、健康保険、厚生年金保険の被保険者ではない
〇所得税の源泉徴収もない

 結論として、この裁判では運転手は労働者でなく請負事業者であると判断されました。また、判決理由の中で、労働者かどうかについては、上記判断基準のどれか一つではなく、各要素を「総合考慮」して判断されなければならないと述べられています。
 加えて、会社と運転手の契約には少なくとも双方に利益があると考えられ、当事者双方の真意、特にトラック持ち込み運転手の側の真意にそうとも述べられていることも注目に値します。

Ⅳ.まとめ、実務において

 請負事業者か労働者かの判例はとても多くあり、個別具体的に判断されます。よって偽装フリーランスと認定されないためには、上記以外の判例もつぶさに踏まえて契約する必要があります。労働者と認められるポイントが一つでもあれば労働者となるわけではないので、事業者と認められる要素の多い契約内容にするとよいでしょう。
 また、報酬の支払いや、業務で負傷等した場合に労災申請ができるか、契約の解除等の場合にトラブルが起きやすくなります。よって、契約時に様々なケースが起こりうることを想定しておくことも大切です。
 検討の結果、労働者と認められる要素が多くなるのであれば、最初から雇用契約を結んでおくの一つです。いずれにせよ、自社の都合だけを考えるのではなく、業務を依頼する側もされる側もお互いに満足のできる合意を結ぶのが最上の契約方法といえるでしょう。

◇補足◇
その他判例は以下のものがあります。
・関西医科大学研修医(未払賃金)事件 最高裁H17.6.3
・藤沢労基署長事件 最高裁H19.6.28
・NHK堺営業センター(地域スタッフ)事件 ⼤阪高裁H28.7.29
・国・中央労働委員会(新国立劇場運営財団)事件 最高裁H23.4.12
・国・中央労働委員会(セブン−イレブン・ジャパン)事件 東京地裁R4.6.6
・日本代行事件 最高裁H9.10.31

また、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が「偽装フリーランス防止のための手引き」※3を公開しており、各判断基準について、許容範囲や要注意の例を示しているので、参考になるかもしれません。

※1 厚生労働省HP(2r9852000000xgi8.pdf
※2 最⼀⼩判H8.11.28
※3 gisou-freelancer-prevention.pdf (freelance-jp.org)

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