賃金・報酬に入るもの、入らないもの②

 このページでは前回の続きとして、賃金・報酬となるかどうかを、法律や制度ごとに説明します。必要に応じて、前回のページの一覧表をご覧になりながら、このページの説明をご覧ください。

Ⅰ.労働基準法、最低賃金法

1.平均賃金※1
 労働基準法では労働協約、 就業規則、 労働契約等であらかじめ支給条件が明確に定められているものは、すべて賃金とされます。具体的には前回のページの一覧表の通りですが、次の期間の給料は有給であれ無給であれ、計算から除外※2されます。

・労災による休業
・使用者の責めに帰すべき事由による休業
・産前産後の休業(労基法が定めるもの)
・育児休業や介護休業等(育児介護休業法が定めるもの)
・試用期間(期間中に算定事由が発生した場合を除きます)

 また、臨時の賃金も計算に含めませんが、「臨時」とは次のような場合を指します。

・臨時的、突発的事由に基づいて支払われたもの
・結婚手当など支給条件はあらかじめ確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ、非常にまれに発生するもの

 現物給与については、法令または労働協約に基づくものは計算に含めますが、そうでないものは除外となります(そもそも法令または労働協約に基づかない現物給与は、通貨払いの原則に違反します)。
 その他、法令ではなく通達により定められているものもあり、税や保険料(事業主が労働者分を負担する場合)、チップ、ストックオプションの扱いがそれに当たります。
 加えて、通達により以下の期間中のものも計算から除外※2されます。

・組合専従期間
・非専従組合員が労働協約に基づいて組合用務に従事 した期間
・争議行為による休業期間
・育児介護休業法の定める育児休業以外の育児休業期間


2.割増賃金
 法定の時間を超えて残業や休日出勤をすると割増賃金が発生します。割増賃金の計算においては、基本給部分だけではなく、各種手当も含めた額の25%ないし35%以上を上乗せします。計算方法としては、毎月の給与から、前回のページの一覧表に「×」とついているものを引く、という形です。通勤手当や住宅手当等が計算から除外されるのは、これらが労働との関連性が乏しく、個人的色彩の強いものだからです。
 計算から除外される手当は一覧表に掲載している5種類に限られます。これらに当てはまるかどうかは名称ではなく、実質で判断されます。ただし、家族手当、通勤手当、住宅手当の3つについては通達により、一律に支払われるものは計算に含めることとなっていますのでのでお気をつけください(たとえば家族数に関係なく一律に支給される家族手当や、距離に関係なく一律に支給される通勤手当がそれに当たります)。


3.最低賃金
 最低賃金は時間あたり賃金で決定されます。よって、日給や月給で働いている労働者については時給に直して、それが最低賃金以上かどうかを確認する必要あります。
 最低賃金の対象となるのは、「所定内給与」、つまり毎月決まって支給される部分です。残業代等の労働時間に応じて変わるものは対象外です。計算の仕方としては、所定な給与から、前回のページの一覧表に「×」とついているものを引く、という形です。また、一覧表にはありませんが、精皆勤手当も計算に含みません。上記の計算の結果得られた金額が、最低賃金水準以上かどうかを見ます。

労働基準法第12条・第37条、同施行規則第2条・第3条・第21条
最低賃金法第3条・第4条、同施行規則第1条
S22.9.13発基17号、S22.11.5 基発231号、S23.2.3基発164号、S23.2.20基発297号、S23.11.22基発1681号
S25.5. 19基収621号、S25.12. 27基収3432号、S26.8.18 基収3783号、S29.3.31基収4240号、S63.3.14基発150号、
H3.12.20基発712号、H9.6.1基発412号、H11.3.31 基発170号
厚生労働省HP

Ⅱ.労働保険

1.労働保険料
 賃金に含めるものは前回のページの一覧表の通りです。ただし社会保険との違いとして、ボーナス等で3ヶ月を超える期間ごとに支払われる、つまり支給が年3回以下のものも賃金とすることは押さえておく必要があります(年度更新の際に、毎月の給料と一括して申告や保険料の納付をします)。
 退職金は原則として報酬ではありませんが、退職前に給与や賞与に上乗せで支給していれば給与となるので注意が必要です。


2.労災保険の平均賃金
 労災等による休業時には労災保険から給付が支給されます。一日あたりの金額は労働基準法の平均賃金とおおむね同じです(端数処理の仕方等に違いがあります)。この時、実際に支払われていなくても、算定事由発生日※3にすでに支払いが確定していれば賃金に含まれます。ただし、算定事由発生後に昇給等により賃金ベースがさかのぼって改定されても、平均賃金は改定されません(昇給等をする前の旧 ベースで計算されます)。


3.雇用保険の賃金日額※4
 労災保険同様、すでに(=雇用期間中に)支払いが確定した賃金も計算に含まれます。そのため、「離職後」に昇給が決定し、離職前の賃金がさかのぼって増加した場合も、昇給分の差額は賃金に含まれません。離職票の記載内容を変更する必要はないということです。ただし、「離職前」に昇給のみ決定し、離職後に昇給額が決定した場合は賃金となります。
 なお、被保険者資格取得届に記載する賃金日額については、臨時や1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金、超過勤務手当を除いた金額を記載します。

労災保険法第8条・第8条の5
雇用保険に関する業務取扱要領
S22.11.5 基発232号、S23.8.11基収2934号
S30.3.31基災1239号等

Ⅲ.社会保険

 社会保険においても、ほとんどの手当※5は報酬となり、奨励金や能率給、現物給与も報酬となります。労働保険との違いとして、ボーナス等で3ヶ月を超える期間ごとに支払われるものは「賞与」として、毎月の給料とは別に申告や保険料の納付をすることが挙げられます。3ヶ月を超える期間ごと、つまり年3回以下の支給かどうかは、同じ性質のものがあればそれらを合わせた回数で判定します。たとえば期末手当と勤勉手当と名称が異なっていても、性質が同じであれば同じ手当としてカウントされます。
 また、臨時の報酬は計算に含めません。「臨時」とは次のような場合を指します(労働基準法のものとほとんど同じです)。

・労働者が常態として受ける報酬以外のもので、その支給事由の発生、支給条件等が不確定のもの

 退職金は原則として報酬ではありませんが、退職前に給与や賞与に上乗せで支給していれば給与となるので、やはり注意が必要です。

※1 平均賃金は、労基法26条による休業中の手当や年次有給休暇中の賃金、解雇予告手当、災害補償、減給制裁の制限額の計算に用いられます。

※2 厳密には、賃金と日数の双方が除外されます。

※3 負傷等の事故の発生日や疾病の発生が確定した日のことを言います。

※4 前回のページの一覧表にはありませんが、物価手当、勤務地手当、単身赴任手当も賃金となります。

※5 たとえば、時間外、役付、決算、期末、食事、寒冷地、技術、職階、勤務地、物価、家族、通勤、住宅、別居、宿日直、休業、療養、待命、帰休すべて報酬となります。

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